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「詩夏姐のような死を、この国の誰にも迎えさせない。そのためなら珠蘭の目論見だって乗ってやった。だが、時が経つにつれて、俺も珠蘭のようになってしまう可能性はある。だから……最初の決意を忘れないために、この指輪を作った」
袍の下の指輪を撫でているらしいその横顔に、最後に別れたときの、あの子の面影が重なる。
詩夏は知らず、憂炎の方に手を伸ばしていた。
(ああ、なんだ。こんな簡単なことだったのね)
「……ふ」
「……どうした?」
「いえ、私もつまらないことで悩んでいたと思って」
詩夏の伸ばした手に、躊躇いがちに憂炎の手が重なる。
温かい手のひらだった。
詩夏はそれを支えに、えいっと起き上がった。
驚いたような憂炎の顔を窺って、詩夏は言う。
「草の根分けても連理の姫を探し出すわ。そうしないと私は消えて——憂炎を一人にしてしまうから」
憂炎の瞳が見開かれる。小さく首を傾けて、詩夏ははにかんだ。
「他に、私にできることはある?」
「……ある」
憂炎が掠れた声で言う。
もう片方の手で詩夏の頬を包んで、こつんと額を合わせた。
祈るように目を伏せて、
「この先、何が起きても俺を信じてくれ」
「ええ、もちろん」
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