連理の姫

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「あの夜、鈴々が御酒の用意をしているのが、花窓からハッキリ見えましたわ。とても思い詰めた顔をして、袖から小瓶を取り出して、中身を盃の一つに入れておりました」 「その後、主上がお倒れになったと聞いてすぐに分かりました。あれは香麗様に命じられた鈴々が、主上の盃に毒を入れた決定的な場面だったのだと。だって鈴々には主上を毒殺する理由がありませんし、何より鈴々は香麗様をとっても慕っておりましたから」  役人たちがざわめく。珠蘭が痛ましげに首を振った。 「そういうことじゃ。鈴々の行方は知れぬが、それもそなたの仕業か?」 「ち、ちが……」  音を立てて顔から血の気が引いていく。ぐわんぐわんと耳鳴りがする。 (まさか、鈴々が私を陥れようと?)  鈴々が香麗を慕っているのは本当だ。そこに偽りはない、と思う。  だが、悪霊になって蘇った詩夏についてはどうだろう。  詩夏が蒼白になっているうちに、裁きは進んでいく。 「万姫に比翼の印が顕れて焦ったか? そなたはずいぶん主上に目をかけられておったようじゃからの。いずれは皇后にでもなれると夢見たか? ハ、平民風情が思い上がるな」  珠蘭が唇に嘲笑を浮かべる。それから頬杖をつき「それに、そなたは万姫にも危害を加えたな」  珠蘭に呼ばれ、人垣の後ろから姿を表したのは万姫だった。 その身には、場違いなほど華やかな紅色の襦裙を纏っている。
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