連理の姫

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 震えそうな声を必死に宥めすかす。今は時間を稼ぐのが先決だった。  だが珠蘭は涼しい顔で肩をすくめる。 「これはまたおかしなことを。主上はもういない。ならば国母たる妾が代行を務めるのは自然な流れじゃろ。……いいや」  珠蘭がすっくと立ち上がる。  国母にのみ着用を許された、明黄色の朝袍の裾をひるがえし、ゆっくりと足を踏み出す。  玉座に近づき、比翼の印が浮き出た右手で、龍の透かし彫りが施された背もたれを撫でた。 「この国を統べるのは、妾じゃ」  悪辣に唇を歪め、高らかに宣言すると、玉座に腰掛けた。  玉座の間に集った百官が騒然とする。詩夏も唖然と口を開ける。  今まで国母の立場から朝廷を操っていた珠蘭の、それは明らかな叛逆だった。 「ああ、やっと手に入った」  玉座に深く座った珠蘭が、うっとりとした口調で言う。  そのとき、軋んだ音を立てて、玉座の間の扉が開かれた。 「——いや、それは貴様のものではない」  威厳のある声に、役人たちがサッと道を開ける。  立ち並ぶ人々の隙間から見えた長い髪、優雅にひらめく冕服の袖に、詩夏は両手で口を覆った。  そこにいたのは憂炎だった。 「な、なぜじゃ⁉︎」  珠蘭が顔を引きつらせて叫ぶ。  憂炎は堂々とした足取りで玉座の前まで進むと、すらりと剣を抜いて珠蘭の鼻先に突きつけた。
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