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「妃嬪の命など塵芥と思ったか? 鈴々はすぐに俺に知らせてくれた。だから俺は一計を案じたわけだ。香麗ではなく、俺が毒を飲む。その機を貴様が逃がすはずが無い。俺は貴様を最も重い罪で処刑場に送ってやりたかった。玉座の簒奪という大逆でな」
「おのれ! 誰ぞ、此奴を捕らえろ! 妾に恩義を感じる者はおらぬのか!」
珠蘭が喚くが、誰一人として動く者はいない。
憂炎は軽々と剣を振ると、なおも喚き続ける珠蘭を峰打ちにして黙らせた。
それから憂炎の合図で兵士たちがやって来て、珠蘭を玉座から引き摺り下ろす。
憂炎はその様を冷酷な瞳で見送っていた。
詩夏はその間中、呆然と立ち尽くすしかできなかった。
思いがけぬことの連続に硬直していた頭が、やっと正常に働き出した気がして、大きく深呼吸する。
何を言えばいいのかもわからないが、とにかく。
(憂炎が無事で、本当に良かった……)
まだ心臓が痛い。
強く脈打つ胸元を両手で押さえていると、憂炎がこちらを振り返った。
険しかった眼差しを緩めて、詩夏を見つめる。
「心配をかけたな。珠蘭は用心深い女だから、演技ではバレる可能性がある。だからあなたにも話すわけにはいかなかったんだ」
柔らかな口調に、詩夏の瞳にじわじわと涙がこみ上げてくる。
わざと乱暴に目元をこすって、すんと鼻を鳴らした。
「本当に死んでしまったかと思って、怖かった。でも信じていたから平気よ」
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