1005人が本棚に入れています
本棚に追加
/121ページ
「…怖い?」
「ううん、平気です」
彼は目を細めて、変わらずキスを落とし続ける。
その唇が耳や首筋に触れ始めると、ワンピースの裾から熱い指先が太股に触れた。
「っ…」
慣れない感覚に肩が小さく跳ねる。
そんな私を見て、彼は手を止めて再び抱き締めた。
「ごめん。やっぱり攻めすぎた」
本当に幸福感で満たされていて、やめてほしくないと思ってしまうのに、身体は未知の世界に怯えて過敏に反応してしまう。
「…止めないでください」
「今日は一段と煽るね。…これ以上は自制が利かなくなるよ」
口調は優しいのに声色は鋭くて、そのアンバランスさすら色気が溢れていて、媚薬みたいだ。
「そうなって欲しいんです」
「…だめだよ。きっと、俺に流されてるだけだから」
「…どうして?」
突然冷えた声が言葉を耳に届けると、理解する頃には、冷たい雨に打たれているかのように身体が冷えて震えそうになる。
「優希ちゃんは優しいから、俺に流されてるだけじゃないのかなって」
私から離れてベッドの端に腰をかける彼が、切なそうに笑う。
「なんで、突然…?」
彼を追うように起き上がり、私は震える心を抱き締めながら問いかけた。
「君が欲しいから俺は貪欲に求めるけど、双方の気持ちにずれがあれば…、それは意味がない」
「…気持ちのずれを、私に感じますか?」
無言なのは、図星だからだろうか。
知らなかった、自分がこれ程までに彼を傷つけていたなんて。今まで自分自身のことで精一杯で、全くこの人を見れていなかったのだろう。
「ごめんなさい、私…、そんな…」
弁解したいのに、何をどう伝えて良いかわからなくて、言葉が詰まって苦しくて涙が出そうになる。
「…いや、ごめん。大人げなかったね、俺」
「私がちゃんと…、言わなかったから…」
言わなくても伝わっていると、勝手に思い込んでいた。今改めて、逃げてばかりで人と関わってこなかったことを悔やむ。
「優希ちゃん、無理しなくて良いよ」
スカートの裾を握りしめて俯いた私に、こんな時まで優しく声をかけてくれるけれど、それはむしろ切ない。
「…、翼さん」
「ん?」
「わ、私、とっくに…、好きです」
「え」
「い、今更、遅いって思うかも知れないですけど…、ちゃんと、なつ、翼さんに恋してますっ。これは間違いないです!だから、…嫌とか無理矢理とかじゃなくて…」
何が言いたいのかわからなくなって、混乱しながら湧き出てくる言葉を広い集めて束ねていく。
最初のコメントを投稿しよう!