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フロントへ連絡を入れてもらっている間ひたすら声をかけ続けていると、突然男性が起き上がった。
「あ、良かった…。あの、大丈夫…」
問いかけようとした瞬間、突然抱きつかれた。
「ちょ、ちょっ、ちょっと」
「…寒いねぇ~」
「…はい?」
「ははっ、お姉さん髪ふわふわで柔らか~い」
髪にじゃれつきながら、肩口に顔を埋める男性。
「…バーテンダーのお姉さん、どうやら救急要請は必要なさそうです」
彼の様子を見たお姉さんは、安堵の表情で苦笑した。
その後駆けつけたフロントスタッフの男性により、彼を宿泊部屋まで運んで一件落着、のはずだったのだが。
「…お兄さん、いい加減離れてくれませんか?」
「う~ん…」
彼は部屋に来てから、再びベッドの上で私にしがみついている。
「…てか、なんで最上階のバーの上に部屋があるのよ。てかてか、何この広すぎる部屋。この人何者なの?」
自分が置かれている場所は、ホテルの本当の最上階にあたるスイートルーム。ベッドルームだけで、私の家のリビングキッチンくらいはあるだろう。天井も高くて、ベッドも信じられないくらいふわふわだ。
今日一日が色濃すぎて、もう笑えてくる。
「はぁ…、もういいや。お兄さんを寝かしつけて帰るか」
がっちりと腕にフォールドされているうえに本人は自覚なしのため、諦めて自分事ベッドに横になった。
「よしよし、ゆっくり寝なさいな」
大きな背中を優しく擦りながら、まるで小さな幼子に言うかのように言葉をかけて、控えめながらも子守唄を歌ってあげる。
すると五分もしないうちに背中に回された腕から力が抜けて、胸元からは心地よさそうな寝息が聞こえてきた。
「ふふ…、本当に子どもみたい」
思わずさらさらの前髪を優しく撫でれば、眉がピクリと動いてしまった。慌てて金髪の髪を優しく撫でれば、表情は力が抜けて穏やかになる。
よく見れば、なんだかかっこいい気がする。
閉じていてもわかるほどの二重の綺麗な線と、高くて小さな鼻。色素の薄い肌にほんのりと赤く染まる頬と男性なのに色っぽい唇。
生まれて初めて、異性に目を奪われた。
しばらく見惚れていると、自分のスマホからハイブ音が鳴り出す。おそらく早紀さんからの電話で間違いないだろう。
急いで鞄を持ち広い室内を出ようと扉に手をかけて、自分は踵を返した。
「…お水、置いておきます。起きたら必ず飲んでくださいね」
そう告げて、最後に布団をかけ部屋を後にした。
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