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2、外車に乗った王子様
梅雨前線の影響を受ける東京都は、本日も鉛色の重たい空模様。
後ろの席の女子たちは放課後の予定を決めるのに嬉しそうだが、放課後とはそんなに楽しいものなのだろうか。ボッチを極めている私には、全くわからない。
そんなことを思いながら本日の講義を終え、賑わう中で教科書をリュックにしまい早速と帰り支度をして席を立った。
すると、後ろの席の女子たちが何やら黄色い声をあげて盛り上がり始め、騒ぎを聞き付けた学生たちが窓際に集まってくるではないか。
(え、急に何?芸能人でも来た?)
一人心の中で疑問に思いながら、人だかりから離れた場所で窓の外を覗き込めば、駒場キャンパスの広場で何やらメガホンを持った明るい茶髪というより、ほぼ金髪をしたスーツ姿の男性が立っている。
その人物は手に持つメガホンを口に当て、とんでもない発言を繰り出した。
『あー、あー、マイクテストマイクテスト。ヴヴんッ。えー、水沢優希さん、水沢優希さん、キャンパス内にいるのはわかっています。今すぐ出てきなさい』
一瞬、聞き間違いかと思った。
しかし、周りの反応がそれを完全否定するのだから目眩がする。
『繰り返します!水沢優希さん水沢優希さん、今すぐ出てきなさい。いや、どうか一度で良いから会ってください』
人は予想外のことに遭遇すると、本当に頭が真っ白になるのだと知った。
何やら懇願されているが、私からも『これ以上下手な真似はやめてください』と懇願したいくらいだ。
「ねぇ、行ってあげないの?」
「へっ、え?」
立ち尽くす私に声をかけたのは、ピンクの長いウェーブヘアーにノースリーブ、それから布の面積が少ないダメージジーンズのギャル。
「あの人、知り合いなんでしょ?」
「あ、いや…、えっと正直わからない…んです」
「…そう。でも、あのままだと先生たちに連れてか行かれるよ」
彼女の視線を辿ると、その言葉通り彼は数名の教授たちに宥められている。
「…で、でも」
「とりあえず、面白そうだから行ってみよ?」
その台詞と同時に有無を言わさず手を引かれた私は、彼女に連れられ小走りで階段を駆け下りる羽目になった。
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