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1、舞踏会とスクリュードライバー
大都会東京の端っこにある一軒家。
そこで暮らすのは、母と父とそれから長女と末っ子の私。どこにでもいるような仲の良い四人家族。
「ケホ、ケホッ…、お願い、お願いよ…優希」
「お姉ちゃん…」
「私の代わりに…頼んだわ…」
でも、その日常はあまりにも突然に変わるもので、ベッドに横たわり辛そうな姉を私達は取り囲んでいた。
「優希、お姉ちゃんのお願いを聞いて上げてほしいの!」
「…頼む、お前しか綾季を救えないんだ」
ちなみに優希と呼ばれたのは私で、フルネームは水沢優希。
綾季は私の四つ年上の姉だ。
「でも…、私まだ大学生だし、さすがに無理だよ」
「…優希なら、絶対に上手くやっていける…わ。ケホッケホ」
「綾季!大丈夫か!?」
肩で息をする姉の手を両親が握りしめ、しきりに声をかける。
「ほら、優希!早く頷いて」
母親に促されても、受け入れられない理由が私にはある。
それはー
「あのさ、こんなこと言いたくないんだけど、お姉ちゃんはただの風邪だからね。さっきからこの茶番は何?」
もはやツッコミをいれることすら面倒臭くなって、適当に茶番に終止符を打てば、姉は勢いよく起き上がって声を荒げた。
「だってぇ~!ケホッケホッ、こうでもしないと、優希が私の依頼を引き受けてくれないじゃない!」
「だーかーら、二十歳のちんちくりんな娘が、雑誌編集者に成りすまして大手出版社のパーティーなんて初めから無謀なの!」
依頼とは上記で上げた内容通りで、姉の担当する美容雑誌の創刊三十周年を祝した大きなパーティーへ、風邪を引いて出席できない姉に代わり私が参加するというもの。
「こら、優希。やる前から無理だと諦める子に、お父さんは育てた覚えはないぞ」
「…あのさお父さん、お姉ちゃんがめちゃくちゃ美人なの知ってるよね。それに比べて私は芋臭いし、メガネで化粧っ気もないのも知ってるよね?」
何が悲しくて、美しい姉と冴えない地味女の私を自ら比べ、違いを力説しなくてはいけないのだ。
「そのくらい大丈夫だろ!お前もお父さんにとったらとても可愛いぞ」
「優希大丈夫。ズビッ、私と背格好も声もそっくりだから!」
「…そっくりなところ、そこしかないでしょ。第一お姉ちゃんは金髪だけど、私は光が当たっても黒髪よ。その時点で負け試合なの」
正論を突き付ければ姉は布団を目頭に押さえ、とんでもない発言をした。
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