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「えーん、もう先輩にお願いしっちゃったのにぃー!」
「は?」
「妹が行くって言ったら、『可愛くするの大好きだから楽しみ!』って、ケホケホッ、筋肉の絵文字付きでメッセ返ってきたのにぃ~」
「そんな勝手な…」
呆れて額を押さえて項垂れれば、後ろから肩を叩かれ有無を言わさない笑顔の母が頷いた。
「行っておいで、優希」
「…はい」
※
五月の半ばとは言え、夕方の五時半を回ると風はまだひんやりと冷たい。
おしゃれな人ばかりの渋谷を、私はグレーのパーカーを被ってジーパンにスニーカーといういつもの服装で歩く。
おしゃれよりも大切なのは温度管理と体調管理。
そんなことを頭の片隅で考えながら、スマホの地図を見て目的地を探す。
そして見つけたのは、打ちっぱなし鉄筋コンクリートのシックなお店。淡いグリーンで記された店名は『brilliant』。
ブリリアントの意味は、『光輝く、華々しい』。つまり、自分には場違いだということで間違いないだろう。
「やっぱり、無理」
開けかけた扉を閉めて踵を返した瞬間、後ろから腕を掴まれた。
「ちょっと、待ってたわよ!どこに行くの」
ハッキリとした顔立ちと真っ白な肌、青い綺麗な瞳。それから美しいロングのブロンドヘアー。
その顔立ちによく似合う、キャメル色のパンツスーツを素敵に着こなしている。
「…あ、あの」
「あ、ハーフだけど日本生まれ日本育ちだから大丈夫よ。それより、綾季の妹ってあなたでしょ?」
「え、あ、ぅ…わ、たし…」
直したい、この人見知り癖。
『違う』とも『そう』とも言えず、まるで喃語のような言葉を話続けていれば、有無を言わさず二階へと連れ込まれた。
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