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「メリハリが欲しいから、ブラウンのサッシュベルトを腰に巻こっか」
「は、はい」
「あとパールのロングピアスと、ダイヤモンドのネックレスを着けて」
「は、はい」
「あとっ!」
大変身した自分に見慣れず狼狽えながらも、相変わらず指示通りに動いていれば、語尾を強めに声をかけられ思わず身構える。
「な、何でしょう…」
「思いきり女を楽しむこと。今みたいに緊張しないで」
「お、女を楽しむ…とは?」
「きっと意味がわかるわ。さぁ行きましょう、可愛い後輩ちゃん。あ、私の名前はセルカ・メアリー・早紀、『早紀さん』でいいわよ」
「…さ、早紀さん。よろしく、お願いします…」
「よろしく」
「あっ、あの…!」
「ん?」
「あ、ありがとう…ございます」
「…いーえ。本当に可愛い娘ね」
少しの間が怖くて下を向けば、想像よりずっと柔らかい返事が返ってきた。顔を上げると、満面の笑みを浮かべた彼女と目が合い少しほっとする。
もしかしたら、悪い人ではないのかもしれない。
外に出れば既に暗くなっているけれど、街灯や高いビルの灯りが夜空を下から照らしている。
「第一グランドホテルまで」
タクシーで十五分走れば、一際高い建物の前で停車し早紀さんに降ろされる。
「ここがパーティー会場よ。行きましょう」
早紀さんの雰囲気から心なしか緊張を感じるのは、私の気のせいではないと思う。
どれ程のパーティーなのかは知らないけれど、恐らく水沢優希の生涯で一度あるかないかのレベルに違いない。
「…あの、私で大丈夫ですか…?」
エレベーターのボタンを押す彼女に問いかければ、大きな瞳が私を捉え呆れたように言い放たれる。
「そんなの知らないわよ」
「…え」
「『大丈夫』にできるかどうは、あなた次第。本当にお姉ちゃん思いなら出来るだろうけど。甘えてちゃダメ、胸張んなさい。あなた、物凄く綺麗なんだから」
チーン、とベル音が鳴り、エレベーターの扉が開けば、無人の空間で鏡に写る自分が出迎える。
そこにいるのは私が知っている自分ではなくて、姉にそっくりな美しい女性だった。
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