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静かな部屋に、自分の鼓動だけが響く。
床に置かれた缶酎ハイが汗をかいている。
窓には星が光っていて、今頃外で茜くんと葵ちゃんは空を見上げているのだろう、などとぼんやり考える。
そんなことを考えるだけの私を、ただひたすらに抱き締めてキスをするのは夏目さん。クーラーが効いていて涼しいのに、私だけ熱くて目眩がしそうになる。
「…っ」
彼の唇が耳に触れてイタズラに弄ぶ。
何度目でも感覚に慣れなくて、硬く目を瞑った矢先、私に触れる彼の唇が離れた。
「…夏目さん?」
顔を見上げれば、少し困ったように微笑む彼が強く私を抱き締める。そして耳元で自分自身に言い聞かせるように、刹那に呟いた。
「ダメだよな、焦ったら。怖がらせたら、本当に最低だもんな」
「あ、あの」
「そうだ!窓から星見ない?今日は北斗七星が見えると思うから」
「…あ、はい」
途端に弾ける笑顔になって、そう提案を持ちかけた彼に頷けば、私の髪を手櫛で直してくれる。
窓際に歩くと、外には満点の星空が描かれていて、ふと肩の力が抜けた。
「いつだって、星は私に癒しと勇気をくれる」
「…緊張してたよね」
「正直、怖かった」
「…ごめん」
謝るのは誘ってしまった私の方で、大きな身体を小さくして謝る彼に首を横に振る。
「謝るのは私の方です」
「そんなことないよ」
「ううん、私です。私が…焦りました」
「焦る?」
「…夏目さんが葵ちゃんの頭を撫でた時、衝撃が走って、雷に打たれたみたいな…」
「…それは、無意識だった。ごめん」
「謝らないでください。色々勉強になりました。これが嫉妬心なんだって初めて知って、それと同時に、友達の喜びを一緒に喜べない自分に苛立って。だから思っちゃったんです、私」
隣にいる彼を見て、幻滅されるかもしれない怖さと戦いながら口を開いた。
「…もし、夏目さんをもっと近くに感じられたら、そんなことを思わなくなるのかなって…」
思いを口にするのが、こんなにも労力を使うことだなんて知らなかった。でも凄く大変なことだとわかっても、それを止めたいとは思えなくて、人間らしい自分に少しだけ笑えてくる。
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