7、グランシャリオと甘い夜

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「何か、私変ですよね」 「変?」 「夏目さんが絡むと、浮かれたり嫌になったり笑えてきたり頭を抱えたり…。穏やかな少し前の私からは考えられない人生で、まるで物語の主人公になったみたい」 「…その相手は、俺でいさせてくれる?」  大袈裟だと笑われるかもしれないと呆れていれば、大真面目な顔でそう問いかける。 「…夏目さんのヒロインは、本当に私でいいんですか?」  私の夜のような薄暗い世界に、彼は眩しい満月みたいだけれど、彼の華やかで明るい世界に私は消えてしまうのではないか。 「その答えは、今から伝えるよ。だから、優希ちゃんも答えて」  引き寄せ合うみたいなキスは、少しずつ長さと熱を帯びて私の息を乱す。  朧気な瞳で彼を見つめると、体がふわりと浮いた。 「お、下ろして、私たくさん食べて重いからっ」  軽々私を抱き上げて、イタズラな顔で私の頬にキスを落とす。 「そんなことを言われると、拒否られてるみたいだな」 「…拒否なんて、してないですけど」 「これは合意アリの接触だね」 「…意地悪」 「大人げなくてごめん。でもそのくらい、必死なんだ」  マシュマロみたいに柔らかなベッドに寝かされた私は、不思議と怖さはなくて、今まで感じたことのない幸福感と期待で胸が溢れる。 「優希」  名前を呼ばれれば、大きな身体で私の全てを包み込む夏目さん。  この温もりが、とても愛おしい。 「夏目さん」 「今も名字?」 「…っ、翼さん」  リクエストに答えたものの、恥ずかしくて広い胸に顔を埋めれば、彼が優しく頭を撫でて私の額にキスを落とす。 「く、くすぐったい」 「最愛の記」  そう言ってイタズラに笑えば、再び唇を塞ぐ。 「好きだよ、優希ちゃん」  キスの間に漏れる吐息混じりの低い声が、愛をたくさん乗せて心に運んでくる。その度に私の視界は潤んでいく。
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