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「…かっこいいなぁ…」
感嘆のため息を吐きながらメモを開けば、電話番号とそれからホテルの最上階にバーがあることが記されていた。
「行ってみるか」
まだ満たされない喉を潤すため、初めてのバーを目指し会場を後にする。
ロビーに出れば、本日初めてしっかりと呼吸が出来た。
一人エレベーターに乗ると、如何に自分が無謀なことをしたか痛感させられた。
鏡に写る疲れきった顔の私が、呆れ顔でこちらを見るから。
やはり今日初めて磨かれた原石は、川辺の石と同じにすぎなくて笑えてきた。
酒に酔って眠ったら、夢オチだったなんてことはないだろうか。
やがて最上階に着いたエレベーターから力のない足取りで向かうのは、お洒落な焦げ茶色の扉。
バーと言うより、どちらかと言うと昔ながらの喫茶店に近い佇まいだ。
「こ、こんばんは…」
初めての場所に緊張しながら扉を開ければ、爽やかなドアチャイムが鳴って、女性のバーテンだーが柔らかく迎え入れてくれた。
「いらっしゃいませ。どうぞ、お好きな席へ」
幸いにも客は私以外に一人のみで安堵する。
ここならゆっくり飲めそうだ。
「あ、じゃぁ、…端の席で」
中央に座るスーツベスト姿の男性へ軽く会釈をし、三つ離れた奥の席へと腰を下ろす。
「何を飲まれますか?」
「…えっと、とりあえずカルーアミルクを」
「承知致しました」
とりあえず飲み慣れたカクテルを注文すれば、目の前で流暢に繰り出される手捌きに目を奪われる。
グラスに注がれたコーヒーの香りが豊満なお酒は、喉を鳴らさずにはいられない程美味しそうだ。
「いただきます…」
「どうぞ」
「…美味しい…!」
期待を裏切らない美味しさ。
カフェオレみたいで飲みやすい。
「お口に合うようで良かったです」
「幸せです…。次の注文を良いですか?」
「…ありがとうございます」
美味しすぎて一気に飲み干してしまった私を、一瞬驚いたように目を見開いたバーテンダーだがさすがはプロ。すぐに笑顔へ戻して頷いて見せた。
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