拡散

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 私が細々と活動している小説投稿サイトで、あるイベントが立ち上がった。架空の村をテーマに怪談話を持ち寄ろうというのだ。  参加を表明する錚々(そうそう)たるクリエイター達の顔ぶれを見て、俄然、闘志に火が付いた。  人気は皆無だが、私だってクリエイターの端くれだ。そもそも作家の価値はフォロワーの数で決まるものではないのだ。  創作意欲に燃える私は、ネタの一助になればと、実話怪談に詳しい友人に電話をかけることにした。 「そら架空の話やなくて実在する村やで」  イベントの説明をすると、友人は意外な言葉を発した。 「しかも呪いをかける方法はもう一つあるんや。それはこと」 「あるものを見せる?」 「そや。村人が悪意を埋め込んだ呪いの幾何や。一見でたらめなモザイク図形に見える。よく見れば“呪”の文字に見えなくもない。せやけど一見しただけではわからへん。それを見た人間は、気づかずに村の呪いに感染してしまうんや」  私は確かにその図形を見たことに思い当たる。そして湧き上がる違和感。  出題者はなぜテーマを単に「呪いの村」ではなく、「村」と限定した?  自らが提示した、ではないのか? 「た、例えば……ある悪意を持った人間が、呪いの図形を周到に忍ばせた作品を作ったとする……さも家屋の配置であるかのように……。そういった作品がもし、影響力のあるクリエイター達を巻き込んだネット上のイベントにアップされたら……どうなる?」 「瞬く間にこの国は呪いの感染列島になるやろな」  私は確信する。   このイベントは巧妙に仕組まれた罠だ!  通話を切った私は、呆然としながら窓の外に目をやった。西の空が不気味な濃紫色に侵食されていく。まるで拡散する呪いのように……  もはや私にできることは一つだけだ。  。  時間がない。私の警鐘を一刻も早く拡散してほしい……まずは取り急ぎ  フォローよろしくお願いいたします。
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