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代償とケジメ
結局、あの日以来波瑠とは一言も言葉を交わすことなく別れはやってきた。本当なら俺が波瑠を寮まで送る予定だったが、すでに出来たらしい新しい友人とその家族と共に波瑠はここを去っていった。そしてその連絡すら俺のところへは来なかった。
どれだけ寂しくても辛くても、波瑠との約束を破り傷つけた代償がこれだというなら俺は受け入れるしかなかった。
「渓くん……波瑠と何かあった?」
波瑠が去ったその夜、皐さんが訪ねてきた。
「詮索したいわけじゃないのよ。でもねここ最近、ずっと辛そうだったから。私には何も言わなかったけど。時々泣いていることもあったみたいで……」
「皐さん、俺……」
もう何も言えなかった。悪いのは間違いなく俺で。波瑠を泣かせたのは紛れもない俺自身で。その上皐さんにまで心配をかけて、本当に何をしているんだろうか。
「俺のせいなんです。全部……」
目が見られなかった。だけど皐さんはそんな俺の後悔を汲み取るようにして優しく頬に触れた。
「違うわ、渓くん。辛そうなのはあなたも同じ。波瑠とまったく同じ表情をするんだもの……びっくりしちゃったわ」
困ったように笑う皐さんを見て、今俺はひどく情けのない顔をしているんだろうと思った。
「誤解があるなら解けばいいの。伝えたいことがあるならきちんと言葉にして伝えればいいだけのこと」
「皐さん……」
「だってその相手は手の届くところにいるんでしょう?」
大切な人との別れを経験した皐さんだから。後悔だらけの今の俺だから。
その言葉はその意味以上に大きく俺にのしかかった。
「そうだ。波瑠から預かっていた物があったのよ」
手渡されたのは小さな紙袋だった。
“もちろん中は確認済みよ。なんてね”そんな冗談を添えて皐さんは波瑠のいない家へと帰って行った。
最後になるかもしれない波瑠からの贈り物。開けることに少し怖くなってしまう。まるで今生の別れを告げられているかのようなそんな気持ちにすらなった。だけど。
「……今さらびびったってもう何も変わりはしないんだ」
言い聞かせるようにして俺は紙袋を開けた。
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