卒業の日

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卒業の日

着慣れたスーツに身を包むもいつもよりも気持ちが正されるのは今日が待ちに待った卒業式だから。 もちろん波瑠からもらった香水もつけて俺は入念に身だしなみを整えた。例えこの先、どんなことが起きたってもう心を惑わさないよう気を引き締めた。この空のように澄み切った心で波瑠を見送りたいから――。 「渓くん、お待たせ」 「では行きましょうか」 保護者として参列すれば気はより一層引き締まった。早くも目を潤ませる親御さんもいて、俺の中にも込み上げるものがあった。 高校を卒業しても波瑠はまた学校へ通うが、義務教育が終わるというのは大きな一つの節目なんだと改めて感じる。 そして走馬灯のように駆け巡るのは波瑠と過ごした尊い日々だった。 数え切れないほど共にした夜ご飯。体調を崩し不安で涙した夜もあった。保護者代理と称して文化祭へも行った。けれど浮かれていたのも初めだけで、共学へ行かせたことに一人後悔していたっけ。それから波瑠の初デートに皐さんと尾行したときもあったな……ってこの話は言えないから墓場まで持っていかないと。 そう。思えば俺の人生にはいつも波瑠がいた。 波瑠がいない人生なんて今はまだ考えられない。けれどこれからはそういう時間も増えていく。その事実を受け入れてきちんと消化していかなければならない。頭ではそう理解しているつもりだが……。 「うゔっ……」 隣で早くも嗚咽を漏らす人がいた。 「皐さん、大丈夫ですか?」 「渓くん……ちょっと悪いんだけど写真、お願いできるかしら、私もうっ……」 「いいですよ」 鼻を真っ赤にして涙する姿につい手が伸びそうになる。さすがにソレは良くないと俺は写真を撮ることに集中した――。
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