卒業の日

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「――今までずっと私とお母さんのこと、気にかけてくれてありがとうっ……。 私が寂しくならないようにいつも傍にいてくれて……寂しいときいちばんに気づいてくれて……本当にありがとう」 「波瑠……」 「けーちゃんにはすっごく感謝してる。全部は無理かもしれないけど……でもこの気持ちをけーちゃんに返したい。一生かけて――」 言葉にならない思いが、 言葉にできない思いが押し寄せる。 俺はもう波瑠から目が離せなかった。 「……私もわかったの。前にけーちゃんが言っていた“好き”の意味がようやく――。 けーちゃんがいない人生なんてもう考えられないっ……。 けーちゃんと()()()家族になりたい……! けーちゃんが……好き……大好きっ……。 だから……だからっ……?!」 「っ――」 「って、どうしてけーちゃんが泣いてるの?!」 人前で泣いたのなんて物心がついてからは一度もなかった。皐さんはあやすようにして俺の背中を撫でてくれたが、その表情を見て俺はまた涙した。だってこれは夢じゃないんだとそう目が物語っていたから。 そしていつの間にかギャラリーの中心にいた俺と波瑠は彼女の級友から祝福を受けた。疑う余地すら奪い去る鳴り止まない歓声。隣りにいたはずの波瑠も級友たちと抱き合っていた。 突然の出来事に、あまりにも現実味のない告白に、この事実を飲み込むのにまだ時間がかかりそうだ。だけど、ずっと心を覆っていた靄が晴れたのは多分そういうことだった。 波瑠が音信不通になった雨の日から始まった、不可解な言動の数々。追及すればするほど自分を苦しめることをわかっていた。だってそれだけはどうしてもあり得ないことだと思いたかったから。波瑠を諦め続けるために必要なことだったから。 だけど波瑠の居場所を守るためだと言いながらも俺のしていた行動が結果、波瑠を苦しめていたなんて本当に皮肉としか言えなかった。でもそんな後悔ももうおしまいだ。 「けーちゃん」「渓くん」 「「改めて、これからもよろしくね」」 「こちらこそ」 この日波瑠は高校を卒業し、俺はこの先も続くはずだった不毛な片思いを卒業した。 まさかこんな日がやってくるなんて……本当に思ってもみなかったんだ。もしも夢だったと言われれば易々と信じてしまうだろうし、明日朝起きてもアレは本当だったのかとしばらくは確認していることだと思う。 けれど、これからは思いの丈を惜しむことなく波瑠へ伝えることができる。止め処なく溢れるこの愛情を目一杯注ぐことができる。 何よりも、愛したかった人をこの手で幸せにすることができる。こんな幸せはない。 「私今……人生でいちばんしあわせかも」 俺もだよ。でも喜びに浸るのはまだ早い。俺の人生をかけて波瑠を幸せにするから。今感じているよりももっと幸せにしてみせるから。だから覚悟しておいて欲しい。 そんな思いを込めて俺は波瑠に口づけた。 【ただ、キミの幸せだけを願ってる。…終】
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