想い

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想い

晴斗は自分の部屋の前に着くと鍵を開けて 文香に中に入るよう促した。 中に入るとソファがわりのベッドに腰掛けるように促されるがままに座る。 壁にはいつもの見慣れた学校のジャージ。 私は一体、学生の部屋で何をしているのか。 晴斗は小さな冷蔵庫を乱暴に開ける。 その乱暴さとは裏腹に静かに、 ほんとに静かに洋菓子店の箱を出した。 そして、小さなテーブルの上に置いた。 キス以来、初めて晴斗が口を開く。 「先生、その箱、開けて。」 「私が?この箱を?」 「そ。早く。」 横から開けるタイプの洋菓子店の箱を開け、 すっとスライドしながら出すと " ふみか ハッピーバースデー" とプレート付きのホールケーキ。 文香は両手で顔半分を覆った。 晴斗が指差すカレンダーには今日に大きな丸がしてあった。 「先生、今日、誕生日でしょ」 晴斗は覚えていた。 「うん。でも、自分は別に良いやって…」 「俺には、どうでも良くないから。」 「…ありがとう。」 彼の気持ちを全く考えず、さっきまで 花火大会が終わったらさっさと帰ろうと 思っていた自分。 「先生、僕は本気だから。」 文香は頷いた。 真っ直ぐに、ただひたすらに純粋な思いだけを ぶつけてくる思いを受け取った。 ケーキにロウソクを全部立てようとする晴斗。 「これ、41本、ケーキ屋さんから貰ったの?」 「いや、100均一っす。」 「全部のロウソク立てたら、穴だらけになりそう。ロウソク、火、着けよっか?私、消したい。」 文香は、初めて笑った。 「やべー、やっぱ、可愛いって。先生。」 またツンとする文香。 「そのツンとデレが、良いんだよな。 大人なのに子供みたいだったり。」 「タバコ吸わない人々の、ローソクに火をつける時にライターない問題発生〜」 長いロウソクを持って、 晴斗がキッチンのコンロから火を運んで来た。 途中から、文香が長いロウソクをもう一本ケーキから抜いて晴斗から火をもらった。 41本全部に火を付け終わるのは大変だったけど、急いで部屋の明かりを落とした。 ロウソクがこれだけ多いとろうそくの下に ケーキがあるといった雰囲気だ。 顔を見合わせて、2人で笑った。 「先生、火、消して。」 「うん。」 途中まで消して、もう一息。 来年は・・・と言いかけて、文香はやめた。 晴斗は来年の今頃は他の人を好きになっているかもしれない。 言葉を飲み込むと、その代わりに 「晴斗君、誕生日はいつ?」 「来月の29日っす。」 「ん、じゃ。また、ケーキ食べよ。」 「はい。」 晴斗は大きな体を小さく丸めるくらい大きく頷て、小さな文香を抱き寄せて頭を撫でた。 ロウソクを全て抜いたケーキは穴だらけ。 「この穴、私が今までショックを受けた数みたいで笑えるわ」 「俺、少しでも良いから、それを埋めたいです。」 晴斗はケーキの穴をひとつひとつ指で埋めて 行った。 文香がその指先を捕まえて自分の唇に押し当て クリームを舐める。 「ありがとう。優しいね。」 「先生が、好きだから笑っていてほしい。」
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