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佐藤樹は「運命の番」なんて信じていなかった。
この世界には男性・女性という第一の性別の他にα(アルファ)・β(ベータ)・Ω(オメガ)という第二の性別がある。
アルファは体格に優れ力が強く知能も高い、その多くが支配者や特権階級者となる。
そして性別問わず、オメガのことを孕ませることができる。
人口の約20%程の割合で生まれてくる。
オメガは力が弱く、それに比例して地位も低い。男女共にヒートと呼ばれる発情期を持ち、その期間内にアルファと性行為を行うと男性でも子供を孕むことができる。
人口の約10%程の割合で生まれてくる。
ベータは一般人であり人口の約70%を占めている。
オメガは様々な理由から長い間、社会から冷遇されてきた。
一番の理由は3か月に1度訪れるヒートと呼ばれる発情期だ。
ヒート期間中のオメガは生殖行動しか取れなくなる。
その上ヒート中のオメガからはアルファをラットと呼ばれる発情期に陥れるフェロモンが放出される。
ラット状態に陥ったアルファはオメガと生殖行為をする事しか考えられなくなる。
それ故にオメガは安定した職業に就くことが難しいのだ。
3が月に一度、個人差はあるものの一週間働くことができない上に、アルファを誘惑するフェロモンをまき散らすのだ。
街中でヒートを起こしたオメガのフェロモンによってラット状態に陥ったアルファが集団でオメガが襲う事件も頻繁に起きている。
ヒート状態のオメガをアルファが襲ってもアルファが罪に問われる事はない。
なぜならばアルファがオメガを襲うのはオメガのフェロモンが原因だから。
オメガのフェロモンでラット状態に陥ったアルファは寧ろ被害者として扱われるのだ。
しかし職場でオメガの社員がヒートを起こし、そのフェロモンでアルファの社員がラット状態に陥いりオメガの社員を襲ったら?
ヒートのオメガをアルファが襲っても罪にはならないと言っても職場でそのような事故が起こることを無視できる会社は少ないだろう。
知能が高く優秀なアルファを欲しがる会社は多い。実際に大手企業になればなるほどアルファの割合が高くなっている。
そんなアルファの多くいる会社がオメガを雇うのはリスクしかないのだ。
更に小さい会社でも3か月に1度来るヒート期間が働けないオメガを雇う余裕などない。
定職に就くことも難しく、弱く子供を産む事しかできないオメガは社会的ヒエラルキーの底辺にいる存在なのだ。
だがアルファとオメガが結ぶことができる「番(つがい)」という契約を結べばフェロモンの問題は解決できるのだ。
ヒート期間中のオメガの項(うなじ)をアルファが噛む事によってアルファとオメガは番になる。
番になったアルファとオメガはお互いのフェロモンしか感じることができなくなる。
番ができてもオメガのヒートが無くなる事はないが、ヒートがきてもオメガのフェロモンは番のアルファにしか作用しなくなる。
不特定多数のアルファをラット状態に陥らせる事故を起こす心配が無くなるのだ。
しかし番ができることはオメガにとって良いことばかりではない。
オメガは一人のアルファとしか番になることはできないがアルファは複数のオメガと番になることができる。
番のアルファに捨てられてしまったオメガは新たに番を作ることができない上に、番以外のアルファには拒絶反応を起こしてしまうため番以外のアルファとは性行為ができないのだ。
発情期が来るたびに一人でその苦痛に耐えなければならない為、番に捨てられたオメガは長生きできないと言われている。
番に捨てられたオメガは悲惨だ…。
そうならないためにも番になるには相手のアルファを見極めなけらばならない。
安定した生活を送るためにはアルファと番にならなければならないが、番になるアルファはきちんと見極めなければなない。
人工の20%しかいないアルファと出会う事は底辺のオメガにとって至難の業だ。
それ故に「運命の番」なんているかわからない不確かなものに出会うのを待つことなどオメガには無理なのだ。
「少しでも条件のいいアルファがいたら「運命の番」なんて待たずにすぐにでも番になりたい」それがオメガたちの本音なのだ。
多くのオメガ達と同じく佐藤樹も「運命の番」なんて信じていなかった…
はずだった。
だがしかし、その香を嗅いだ瞬間、気づいてしまった。
これは「運命の番」の香りだ…と
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