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いくつかの乗り物に乗った後、昼食のためにフードコートに入る。
頼んだものはキャラクターの顔になったハンバーガーのセット。
「どうしようお父さん、可愛くて食べられない」
「一思いにガブっといけ、ガブっと」
葵さんと鈴ちゃんの会話を聞きながら、陸斗が食べるのを手伝う。
「おいしい!」
一口頬張った陸斗が、パアッと満面の笑みを浮かべる。
「いっしょにたべよ?」
そしてまだ口をつけてない私たちに向けて言う。
「りーくんが言うなら……うん、おいしい!」
「ん、うまい」
2人に倣って、私もハンバーガーに齧り付く。
「ままもおいし?」
「うん、おいしいよ」
ああ、幸せだな。
美味しいものをみんなで食べて、笑い合う。
それだけでこんなにも満たされた気持ちになれる。
「ねえ、見てあそこ……美男美女夫婦」
「え、どこ? ……ほんとだ!
しかも子どもたちも可愛いとか羨ましい~。
理想の家族すぎるんだけど」
近くのテーブルから感じる視線。
ちらりと目を向ければ、大学生くらいの女子2人組がこちらを見ながら囁きあっていた。
「……だってよ」
葵さんにも聞こえていたのか、私を見ながら目を細める。
「……嬉しいことだね」
私は曖昧に笑い返した。
理想の家族、か。
“家族になりたい“
そう気持ちを確かめ合ったあの日から、私の気持ちは変わっていない。
けれどまだ、私と葵さんは恋人同士のままだ。
唯一変わったことといえば、「いい加減敬語は卒業しない?」
そう言われてから、葵さんに対して敬語を外して話すようになったことくらい。
“だから、俺と―――“
あの日言いかけた言葉の続きを、期待している自分がいた。
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