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ずっと黙っていた鈴ちゃんが、ゆっくりと口を開く。
「……やだ。私はママよりも天音ちゃんがいい。
天音ちゃんと一緒にいる」
スミレさんをまっすぐ見据えて、鈴ちゃんは言う。
「だから、ママとは一緒にくらせないよ」
「な……っ」
その答えに、スミレさんは眉を吊り上げるがすぐに取り繕うように笑顔を作った。
「鈴、この人に遠慮してそんなことを言っているんでしょ?
でも、自分に正直になっていいんだよ。
ママには分かるの……きっとあの日再会した後……ママが恋しくなったでしょ?」
「なってないよ」
きっぱりと言い切る鈴ちゃんに、スミレさんの笑顔が引き攣った。
「天音ちゃんはお父さんと結婚して、みんなで家族になるの。
だから天音ちゃんはニセモノなんかじゃない」
力強い言葉が、静かな店内に響く。
「私のお母さんは、この先もずっとずっと天音ちゃんだけだよ」
「……鈴ちゃん……」
目が合うと、鈴ちゃんが私に微笑んだ。
込み上げる思いに涙が出そうだった。
私は頷いて、スミレさんを見据える。
「鈴ちゃんは、私の大事な娘です。
あなたには絶対に渡しません」
「何よ……っ」
顔を真っ赤にしたスミレさんが、水の入ったグラスを手にとる。
かけられる……!
私は咄嗟に鈴ちゃんを庇うために前に出て、ぎゅっと目を瞑った。
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