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「な……なんで……!?
だって私たち、一度は愛し合った仲じゃない!
それに何と言われようと、鈴の本当のお母さんは私……!
それに、私だってその人にだって負けないくらいまだ綺麗でしょ?
葵に相応しいのはこの私だよ……!」
スミレさんが必死に言い募った。
涙でメイクが滲み、目の周りが黒く汚れている。
「ねえ、葵……あの頃の私たちに戻ろうよ?
そしたらきっと、私たちまた幸せになれるよ」
葵さんは少しも動じることなく、冷静なままだった。
「随分と都合のいい幻想だな。
とっくに終わった過去にすがったところで、得るものは何もない。
俺と鈴の幸せの中に、お前はもう存在しない」
「でも……!」
尚も言葉を重ねようとするスミレさんを遮って、葵さんが言う。
「そもそも言ったよな、“次はない“って。
これ以上この無駄な問答を続ける気なら、違反行為として警察に通報する」
スミレさんを見下ろす視線も口調も、付け入る隙がないくらいに冷え切ったものだった。
スミレさんは、ショックを受けた顔で黙り込む。
「……何よ……結局葵も、若い女がいいのね……!」
それからぶつぶつと呟いたかと思うと、ギロリと私のことを睨みつけた。
葵さんはすぐに私を背後に隠すようにして、その視線を遮る。
「警察の世話になりたくないなら、今すぐここから出ていってくれ。
―――そして二度と俺たちに近づくな」
睨みつけていたはずのスミレさんの顔が、どんどんと泣き顔になっていって。
ついにはポロポロと涙をこぼし始めた。
「どうして……どうしてよぉ……。
このままじゃ私、一人ぼっちになっちゃうよ……」
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