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私たちに向き直り、少し気まずげに首を傾げたスミレさん。
頬を紅潮させながら、ペラペラと語った。
どうやら別れたとはずの年上の彼……“まぁくん“と先ほどのやり取りで復縁することになったそうだ。
まぁくんは一度は若い女に走ったけれど、その後事業に失敗して借金を抱えて、田舎の実家に帰ることになった。
スミレさんは、そのまぁくんに着いていくことを決心した。
都内のタワマンで優雅な専業主婦の夢は叶わないけれど、それよりも大事な真実の愛に気づいたから……目をキラキラさせて語るその姿を、白けた気持ちで見ることしかできなかった。
……不倫を経験すると、頭のネジが抜けて戻らなくなってしまうのだろうか。
それに鈴ちゃんを前にして、一緒に暮らそうやっぱやめた、なんて……身勝手にも程がある。
スミレさんに対して怒りを覚えた。
「ていうわけで、葵の言う通りもう二度とあなたたちの前には現れないわ。約束する」
いとも簡単な前言撤回。
けれど何はともあれ、大人しく引き下がってくれるならそれが最善の道だ。
スミレさんが、鈴ちゃんに向かってにっこりと笑いかける。
「鈴、新しいお母さんと仲良くね」
「……う、うん……」
スミレさんの豹変っぷりが怖いのか、鈴ちゃんが私の手をぎゅうっと握った。
少しでも安心させてあげたくて、私もその手を握り返す。
「葵も、お幸せに」
「……もう二度と、約束を違えるなよ」
「分かってるって」
スミレさんが荷物を持って立ち上がる。
そして去り際に、私と目が合うと「あなたも」と口を開いた。
「まだ若くて綺麗なうちはいいけど……せいぜい飽きられないように頑張ってね」
「……ありがとうございます。
でも、ご心配なく。
彼がいっときの寂しさや外見に惑わされる人でないことを、私はよく知っていますから」
私の返答にフン、と不満そうに鼻を鳴らして、スミレさんは店から出て行ったのだった。
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