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私の腕の中にいる鈴ちゃんが、顔だけで後ろに振り返る。
「それに今日は、お父さんが天音ちゃん大好きってこともよーく分かったよ」
「当たり前だろ」
しれっと答える葵さんは、それからふわりと微笑んだ。
「天音も鈴も陸斗も、家族丸ごと世界一愛してるよ」
葵さんが手を伸ばし、鈴ちゃんの頭をわしゃわしゃと掻き乱す。
「いやー明日寝癖になるー!」
そう言いながら鈴ちゃんは嬉しそうに笑って。
「……ぅ……」
そんな時、熟睡していたはずの陸斗がもぞりと動いた。
「お……起こしちゃった?」
鈴ちゃんははっと声をひそめて、みんなで陸斗の様子を伺う。
「……どーなつ……」
言葉と連動するように、陸斗の口がむにゃむにゃと動いた。
「……寝言?」
「りーくん、夢の中でもドーナツ食べてるのかな?」
今日は、夕飯後に手作りドーナツをデザートとして出していた。
陸斗はそれをとても気に入って、満面の笑顔で完食した。
「そうだろうな。見ろよこの幸せそうな顔」
葵さんの言う通り、陸斗は幸せそうな顔で眠っていて。
未だにむにゃむしゃと動く口端からは、今にもよだれが溢れそうだ。
「陸斗ってば、夢の中でも食いしん坊なんだから」
私の言葉に、吹き出すみたいに葵さんと鈴ちゃんが笑って。
「んじゃ、俺たちもそろそろ寝るか」
葵さんの言葉を合図に、豆電球にしていた照明を完全に切る。
「おやすみなさい」
スミレさんの一件で曇っていた心は、すっかり幸せに塗り替えられていて
私たちは身体をぴたりとくっつけ合って眠りについたのだった。
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