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「あの、今日は本当にありがとう。
でも誕生日だからって……こんなに贅沢させてもらっていいのかな」
レストランでの食事もここの宿泊代も、全て葵さんが払ってくれている。
決して安い出費ではないはずだ。
葵さんがふっと笑みを溢す。
「いいんだよ、こういう時のために稼いでるんだから。
お前は何も気にせず楽しんでくれればいーの」
「……ありがとう……今日はすごく楽しかった。
陸斗にとっても、すごくいい思い出になったと思う」
「そりゃ何より。
……でもまだ、一大イベントが残ってるんだけどな」
「……え?」
ボソリと呟かれた言葉を聞き返す私に、葵さんが言う。
「天音、俺がいいって言うまで目を閉じてて」
「え……っと……こう?」
突然のことに戸惑う気持ちと、抱いてしまう期待感に心臓が鳴り出す。
「いいよ。目、開けて」
その言葉を合図にそうっと目を開ける。
「……これって……」
目の前のテーブルには、リングケースが置かれていた。
「開けてみて」
震える指先でそっとケースを手に取り、蓋を開ける。
そこにはダイヤの煌めく指輪が収まっていた。
「……天音」
名前を呼ぶ優しい声に、顔を上げる。
「―――俺と、結婚してください」
それは、待ち望んでいた言葉だった。
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