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炭酸水を置き、ぽつりと言う。
「嫁 欲しい。」
「ガチャの?」
「ぃや、ゲームじゃなくって。」
「……私がいるじゃん。」
「あ…」と言って、炭酸水から友達の顔に視線を替えて考えたあと、軽く首を傾げながら「なんか違う。」と答えた。
「贅沢なっ。」と半分笑って、ソイ・ラテを一口含んだ。
スマホを握ったまま両腕を上に伸ばして、思いきり伸びをした。
「嫁 転がってないかなぁ。――あっ、和歌ってさ、今時の言葉で書いたら めっちゃ情熱的らしいね?」
突拍子もないことを話す顔を見ながら、手はストローをつまんで ラテの氷をカラン、カラン、と鳴らしている。
「…らしいね。でも昔って、平安時代とか? 通い婚は嫌だな。夜這いみたいなのとか?」
「夜這い!?」と答えた目は真ん丸だ。
スマホを持たないほうの|掌《てのひら
》で軽くテーブルを叩いて「言・い・か・た!」と言ってケラケラ笑っている。
笑い終えて、軽く息をついて…窓を見つめた。
「看護学校に行く話、決まった?」
つられて窓の景色を見て、「うん。」と頷く。
看護学校に通うには、この島を出なければならない。
窓を見つめたまま、
「そっか…。」と呟くように答えた。
「向こうでも、メールするよ。」
「うん。応援してる。」
「ありがとう。お盆とかは帰って来ようと思うし。これからもよろしくね。」
「うん。よろしく。」
2人は少し切ない表情で笑い合った。
それからも取り留めのない話は、夕暮れ近くまで続いていた。
そんな他愛もなく過ごす時間さえ、心の宝箱の隅を埋める大切なものになるのだ。
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