これからも、よろしく。

3/3
前へ
/3ページ
次へ
炭酸水を置き、ぽつりと言う。 「嫁 欲しい。」 「ガチャの?」 「ぃや、ゲームじゃなくって。」 「……私がいるじゃん。」 「あ…」と言って、炭酸水から友達の顔に視線を替えて考えたあと、軽く首を(かし)げながら「なんか違う。」と答えた。 「贅沢(ぜいたく)なっ。」と半分笑って、ソイ・ラテを一口含んだ。 スマホを(にぎ)ったまま両腕を上に伸ばして、思いきり伸びをした。 「嫁 転がってないかなぁ。――あっ、和歌ってさ、今時の言葉で書いたら めっちゃ情熱的らしいね?」 突拍子(とっぴょうし)もないことを話す顔を見ながら、手はストローをつまんで ラテの氷をカラン、カラン、と鳴らしている。 「…らしいね。でも昔って、平安時代とか? 通い婚は嫌だな。夜這(よば)いみたいなのとか?」 「夜這い!?」と答えた目は真ん丸だ。 スマホを持たないほうの|掌《てのひら 》で軽くテーブルを(たた)いて「言・い・か・た!」と言ってケラケラ笑っている。 笑い終えて、軽く息をついて…窓を見つめた。 「看護学校(かんごがっこう)に行く話、決まった?」 つられて窓の景色を見て、「うん。」と(うなづ)く。 看護学校に通うには、この島を出なければならない。 窓を見つめたまま、 「そっか…。」と呟くように答えた。 「向こうでも、メールするよ。」 「うん。応援してる。」 「ありがとう。お盆とかは帰って来ようと思うし。これからもよろしくね。」 「うん。よろしく。」 2人は少し(せつ)ない表情で笑い合った。 それからも取り留めのない話は、夕暮れ近くまで続いていた。 そんな他愛もなく過ごす時間さえ、心の宝箱の(すみ)()める大切なものになるのだ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加