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それはそうと、基本的に魔法鍛冶では一度創製したものを全く別の物に創り直すことができない。
そして創製物は、生み出された目的を果たした時には塵となって消える。
ただし自動人形に限っては人工知能を別の金属に書き換え、新しい身体に移せば魔力を注ぎ込める限り稼働させられる。
魔法鍛冶師によっては目的を設定しないこともあるくらいだ。
そのはずだが実際は不具合や誤作動を起こしやすく、十年ももたないことがほとんどだった。
戦闘型であれば激しい衝撃も加わるから更に寿命が短く、その優れた戦闘機能を味方や創った鍛冶師本人に向ける事故がしばしば起こった。
それにも関わらず大戦が終わった後、どの国も防衛のためと称して戦闘型の自動人形を手放せていない。
俺は形を変えながら二十年以上を生きている。
好き勝手にふるまってきたし、もう充分だと感じていた。
いつ誤作動を起こしてもおかしくないし、そうなっても構わないと思っていた。
アートルムが意識を取り戻し、何とか自力で動けるようになったころのことだ。
「なあイーレ。今日の昼飯は肉と魚どっちにする?」
俺は自動人形だが、物を食べることもできる。
動力として使えるわけではないので嗜好品に過ぎないが、俺はこの食べる行為が好きだった。
無駄な機能なので、他の魔法鍛冶師はまず試すことがない。
アートルムが物好きな変わり者なのは、俺にとっては幸いだった。
「魚!」
俺はウキウキと答えた。
「じゃあ麺にしよう」
「……何でわざわざ聞いた」
「イーレ、人間になりたくないか?もっと色んな物が食えるぞ。そうだな、他にやりたいことはないか?」
「俺が前に頼んだ時には聞かなかっただろう。今さらどうした」
そう、聞き入れてくれていればそれほどまでに傷つかなくて良かっただろうに。
「おまえはただの友だちじゃない。ある時には兄貴で弟で、まあ言葉に表せるようなもんじゃない。だからさ、道具にはしたくなかったんだ。使い捨てられるはずがない。代わりなんていないんだ」
長い間があって、アートルムはそうぼそぼそと呟いた。
この感情を何と呼べばいいのか、俺は答えを持たなかった。
「ふーん、そうかあ。じゃあな、でっかい骨付き肉を食えるようにしてくれ。創製もしてみたいな、魔法鍛冶師になったら細々とでも暮らせるだろ?あとな、護身くらいはできるような戦闘機能もつけてくれ。見てくれもそう悪くない程度にしてくれよ?」
「わかった」
アートルムはこれまでにないほどの真顔だった。
「いやいや、本気にするな。この世界の誰がそんなもん創れるんだ」
アートルムは何も言わずに微笑んだ。
どうしようもなく胸が騒いだ。
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