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文化祭・3
目の前の波音は頭を抱え、深くため息を吐く。
するとふらりと女子生徒がやってきて、顔を覗かせた。
「水鏡さーん、ありが――おや、お客さんが。お邪魔だった?」
「全然邪魔じゃないわよ。寧ろこんなのと会話が弾む訳がないじゃない」
立ち上がる波音は不機嫌そうに腕を組む。
その様子に墨色の髪を二つ結びにした女子生徒は少しニヤつきながら何度も頷く。
「へぇー、そうなの。ほらほら、けが人は彼氏さんに連れて帰られな」
「全然分かってないわね!!」
ぷんすかと波音は怒っている。
何の話かはよく分からない。
でも波音は回収しろと言われたので、とりあえず波音を引っ張る。
「ほら、行くぞ」
「あっ、こら、引っ張るな! まだ誤解が解けてない!!」
「……」
「そういう顔をするんなら一品買ってから出てくることね」
「……」
「めんどくさそうな顔しないの」
「……」
眉間に皺を寄せられ、廊下に波音を置いて戻る事になった。
正直見てもあまりよく分からない物ばかりだというのに。
そこへごそりと鞄が揺れる。
「正也、ハンカチの礼がしたい」
「……なるほど」
どうやら式神は何かを考えているようだ。
教室に戻ると、先ほどの女子生徒が振り向いてきた。
「あっれ、どうしたの?忘れ物?」
「波音に何か買えって言われた」
「そりゃ女の子はプレゼント欲しいって言うでしょうね」
「……そういうもの?」
「そういうものよ」
にっと笑う女子生徒。
正直そういう気持ちもあまりよく分からない。
そして何が喜ぶのかも分からない。
「……お相手さん、どんな子?」
「え?」
「いやあ、悩んでそうだし、そういうの得意そうじゃないように見えるから」
「……」
図星かな?とにひひと笑って、女子生徒は胸を張る。
正直説明するのも面倒だが、ここは同性に聞いた方が正解なんだろうなと思う。
「……好みは知らない。髪が長い、これくらいの……」
腰辺りで手を水平に動かして高さを伝える。
女子生徒はふむ、と考え込むとすたすたと歩きだして、髪留め類の置かれた机を覗く。
「んー……髪を纏めたりはしないの?」
こんな感じで、と自分の髪を触る女子生徒だが、そういえば日和が髪をまとめた姿はあまり記憶にない。
「あまり見ない」
「あ、じゃあお代はいいからさ、よかったら私の試作品持ってってよ」
「え」
「これなんだけど」
女子生徒が私物の鞄から透明なケースを差し出してきた。
中には橙色のリボンとレースが一緒に巻かれている。
どうやらリボンにそのままレースを縫い付けた物のようだった。
「作ったはいいけど、出店に間に合わなかったのよねー。彼女さんそういうの使わない?」
「……彼女さん――」
やっと波音との会話を理解した。
「――彼女じゃない」
「今更否定するか。まあいいや、折角だから持ってってよ」
苦笑され、押しつけられた。
どうしようか悩む。
悩んだ挙げ句、ケースに入ったリボンと睨めっこして、折れることにした。
鞄の中に入れ、気持ちの200円を出して机に置く。
すると女子生徒は少し驚きの表情を見せた。
「え、別にいいのに」
「一応、渡してみる」
「わはー、ありがとう! それじゃ、気を付けて帰ってねー」
手を振られて教室を後にすると、波音が不貞腐れながら待っていた。
「遅い」
「……」
そんなに時間をかけたつもりはないんだけどな。
それから帰宅中、竜牙が鞄の中何かをしていた。
どうやら購入したばかりのリボンを広げて作業をしていたらしい。
竜牙が苦笑しながらリボンに力を込めていたことは、見ないふりをした。
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