9人が本棚に入れています
本棚に追加
2-1 悪夢からの目覚め・1
『処刑台の女王』
これが妖・奥村弥生の名前となった。その性質は「強欲」
金詰日和の力の為なら何も臆さなかった。
『会えば死ぬ』
とても分かりやすい名であり、そのまま強欲の女王とするよりも如何に危険であるかが良く出ている。
さて、その女王を倒した金詰日和はというと、自身の誕生日どころか、まず2日寝続けた。
更に3日目にやっと起きたかと思えば、3日間気持ち悪さと吐き気、頭痛に悪寒、と完全に自身の力に酔っていた。
そして体調を考えて2日間様子見をして1週間以上が経った現在、やっとまともに過ごせるようになったのが、今日である。
「日和さん、体調はいかがですか」
神宮寺邸の朝日が照らす和室で休んでいた日和は起きがけに入ってきた朋貴にそう尋ねられた。
9月、謹慎と称し1週間充てられた日和の部屋だ。
「だいぶ良くなりました。すみません、お世話になってしまって……」
毎日世話をしてくれた和田朋貴という男は21歳だという。
師隼よりも若さがあるが、仕事は丁寧でよく気付き、面倒見のいい青年だった。
梅雨の時期、最初の講義で紹介してもらったが、術士だという割には世話係が板についている気がする。
ちなみに日和だけでなく波音や夏樹、玲、正也もここで療養をし、全て朋貴が世話をしていたと聞いたのは更に数日後の話だ。
「そうですか。なら、よかった……」
漆黒の短髪が似合う爽やかな青年調の朋貴だが、控え目に微笑む日和の表情に対してどこか濁した言い方をした。
「えっと……どうか、しました?」
不思議に思った日和は小首を傾げ聞いてみる。
するとぴくりと反応して、乾いた笑いを見せた。
「すみません。前はもう少し感情の薄い方だと記憶していたので……。その時と比べる、柔らかいというか、可愛らしくなったなと。表情が豊かになったように見受けられますが、そのせいですかね?」
言葉を選んでいるのだろうが、さらりと言われた言葉に日和は固まって、ぼん、と音が出そうな程、顔は一瞬で熱を感じた。
「そっ、そうですか……? あ、ありがとうございます……?」
深く意識はしていない。
それでも思わず上擦った声に疑問形が出た。
「今日はお食事、いただけそうですか?」
「あ、はい。お腹が空きました」
「分かりました。準備致します」
くすくすと笑う朋貴に日和は顔を赤くしながら答える。
日和はこの部屋で療養を始めてから部屋を一切出ていないし、まともな食事すらもとれていない。
昨日までは庵で勤務している医師・高峰数馬がわざわざ点滴を打ちに来る毎日だった。
体力が底辺にまで落ちていそうで流石に心配になる。
朋貴がその後部屋を出て10分程経つと、準備ができました、と呼びに来た。
日和は立ち上がるが、どうにも足元が覚束無い。
ふらふらとしてしまう体を朋貴に支えてもらいながら食事の部屋へと案内してくれたものの、少し申し訳なさを感じる。
どこへ行くのか分からずそわそわする気持ち。
ふと中庭に視線が流れた時に、青々と茂った植物が綺麗だなと感じた気持ち。
それは奥村弥生という大きな存在が生きていた数日前までの日和にあっただろうか。
少しだけ自分も変わったような感覚を抱えていると、「こちらです」と声がかかった。
襖を開けると、見覚えがある顔が部屋の中心に居る。
神宮寺師隼……――。
日和はその存在に、途端に緊張した。
最初のコメントを投稿しよう!