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お父様のお言葉・3
猫まみれの部屋に布団が敷かれ、親友がその上にぺたりと座っている。
昼食を終えた後は結局雑談をしながら編み物をしていた。
日和は満足しているのか終始楽しそうにしていて、夕食を共に食べて来た今だ。
「……いいの?」
「いいですよ。なんかこういうのって、特別感があって良いですね。なんだか楽しいです!」
日和はにこにこと楽しそうに笑っている。
荷物を置きに部屋に入った時も「猫です!」と声を上げていたが、今も何だかんだ楽しんでいるみたいだ。
ちなみに現在誰が布団で寝るかの相談をしていて、日和が布団で寝たい!と目をキラキラさせていたので決まった。
常にベッドで過ごしていた為、布団初体験なのだという。
「こうやって友達の家に遊びに行くことも初体験のような気がしますが、他の人と一緒に寝るのも初めてです。ドキドキしますね」
「そ、そう……?」
全く、日和は恥ずかしい事も平然と言うから心が保たない。
こっちが恥ずかしくなってくる。
「ほら、場所教えたんだから先にお風呂に入って来なさい」
「波音は一緒じゃないんですか?」
ほら出た、とんでもない発言。
「いや、お風呂くらい一人で入るものでしょう?」
「あっ……そうですよね、すみません。ちょっと色々と感覚が麻痺してました」
日和は祖父との二人暮らし、親孝行(?)に背中を流す可能性も否定はできないけど……いや、絶対無い。
じゃあ置野家が誰か一緒だったのだろうか。
いやいや、いくら使用人が多い家だとはいえ、流石にそこまではしないだろう。
「……」
つい訝しんだ目で日和を見ると「あはは……」と乾いた笑いをしている。
日和は息を吐くように実状を吐いた。
「私に付いてくれてる女中の姉さんが、いつも一緒に入ってくれたり背中を流してくれるんです。つい慣れてしまってましたがそうですよね、普通は一人ですよね……」
居た。
その女中は大丈夫なのだろうか、とつい不安になってしまう。
いくら女性といえども何をしているのだろう。
いくらなんでも世話を焼く範囲が広すぎではないだろうか。
「……とりあえず、行ってらっしゃいな」
「そうですね、じゃあお先に失礼します」
上下に分かれたパジャマセットと下着を持って日和は先に部屋を出ていく。
一緒に入れば?という提案もあったけど恥ずかしいし、刻印を見られるのも嫌だった。
だからさり気無く断っておいのだけど……提案をしたのはうちの使用人だ。
いつもは一緒に入らないくせに。
「……ふぅ」
少し溜め込んだ息を吐き出したくなって、合わせて全身の力を抜いた。
手のひらを出してもまだ火は灯らない。
日が経って出てくればいいけど、たまに数日出ない時もある。
今回はそうならなければ良いな、と内心思いながら、日和が戻って来るまで待った。
それが1時間ほどかかるとは思わなかったけど、いつもと違う所だし日和は髪が長いから仕方ないのかもしれない。
そう思って、気にする事も無かった。
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