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お泊り中の決意・2
「私、まだ術士の力を使えなくて……でも、それまでは自分の力で、自分のできる事をしようと思ってます。最終的には……どうなんでしょうか……。でも、それが皆の役に立つのなら、術士になりたいとも思ってます……」
胸の内を吐く日和に、蓮深は優しく微笑む。
正也や夏樹の母をも思い出すそういった笑みは、母親の笑みなのだろうか。
そこでふと、自分の母にそんな姿はあっただろうかと、思考が巡った。
「術士は心の中に自信の力の源があります。私や波音には火が灯っていて、置野には土が、高峰には水が、小鳥遊には風が吹いていることでしょう。その心にある力の源の状態によって己を強くするの。貴女には、電気の力ね」
蓮深は指先を水面から出し、優しい面持ちで目の色を深くする。
「火が灯ると優しい気持ちであれば――こうやって蝋燭の火のような、強い気持ちがあれば……激しくなる」
蓮深の言葉に合わせて指の先から火が現れる。
最初は小さく仄かな火が灯ったが、蓮深の目に力が籠るとぼわりと音を立てて大きくなった。
それは全てを燃やし尽くしてしまいそうな、真っ赤な火だ。
「貴女はどうかしら。もし術士になりたいと思ったら、そういうことを意識すると良いと思うわ」
ちゃぽ、と水の音を鳴らし指が沈んでいく。
指先の火は何事も無かったかのように水の中に姿を消してしまった。
「心に、力の源……。だから術士や妖は感情に左右されるんですね」
「……ふふ。ええ、そうね」
ぼそりと呟いた言葉が意外だったように目を見開き、蓮深はくすくすと笑いだす。
「……?」
「ごめんなさいね、貴女は本当に、蛍さんの娘さんなのだと思っただけよ」
「そんなに私と父は似てますか?」
「ええ、とても。特に……興味を持った時の顔と、気になっていることが解決した時の表情はとても似ているわ」
日和が父と会えたのは弥生を倒す直前の、たった一瞬だった。
それでも二人を知っている人物が日和と父は似ているのだと言われ、なんだか恥ずかしくなった。
同時に父の事を知ることができて、少しだけ嬉しくなった。
「そろそろ洗わないと逆上せてしまうわね。……ねえ、私に洗わせてくださる?」
「えっと……い、いいんでしょうか……」
「……もう少しだけ、私の欲に付き合って欲しいの」
「わ、わかりました……」
言われたままに背中を流してあげると逆に髪を丁寧に洗われ、体さえも流してもらってしまった。
それから少しだけ湯船に浸かったが、扱いは置野家に居た頃と結局変わっていない。
どうしたらいいか迷ったものの、蓮深はまだ入るようで先に上がらせてもらった。
蓮深は満足したように、「また、娘のように可愛がらせてね」と微笑む。
その姿に少しの恥ずかしさと蓮深なりの歓迎を感じ、「ありがとうございます」とたった一言残すことにした。
それから日和は身体を拭いて、着替え、待っているであろう波音の許へ、小走りで部屋に戻った。
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