狐と術士

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   お泊り中の決意・4  波音は服を持って入浴へと消えていく。  これからどうしようかと思いあぐねていると、コンコンとノックが聞こえた。  誰かと思う前に扉が開き、顔を覗かせたのは清依だ。  その胸にはもさもさと可愛らしい猫がじっと日和を見つめている。 「聖華はいるかい?」 「あ、先ほどお風呂に行きました」 「ならよかった。狐面の金詰日和さんに、これを」  清依の表情が真剣なものになり、メモのような物を差し出す。  なんの用なのかすぐに理解し、用紙を受け取った。  折りたたまれた紙を広げ内容を見ると、今探っている件についての進展が書かれていた。 「ありがとうございます。明日、魁我さんと話をしてみようと思います」 「そっか、分かったよ。気を付けてね」 「はい、分かりました」  清依はじゃあ、とふらりと猫と共に去っていく。  波音が戻ってくる前に日和はもう一度用紙を見て、内容を頭に叩き込んだ。  明日からまた少し、忙しくなるのだろう。 「ふう、ただいま」 「波音、おかえりなさい」  しばらくしてから波音が戻ってきて、今度は日和が波音の髪を乾かす。  赤い髪が舞ってとても綺麗で、しかし日和よりも短い髪はすぐに乾いてしまった。 「元々私、すぐ乾いちゃうのよね。火の守りのせいね」 「そういえば出会ってすぐも制服乾かしてましたね」 「まーた懐かしい話を……」  くすくすと波音は笑い、日和はにこりと微笑む。 「あの時は皆が不思議で仕方がありませんでした。術士とか、妖とか、全てが私の知らない世界で、少しだけ……交じりたいけど、入りづらそうな世界だなと思ってました」 「……どうしたの?急に」  不思議そうに首を傾げる波音に首を横に振って、日和は胸に手を当てる。 「私、皆のことを知れて良かったです。後悔なんてありません。これからも、もっともっと皆を知りたいです。……波音、私に術士のことを教えてくれませんか?」  目を瞑り、再び目を開けた日和はじっと目の前の親友を見つめる。  波音の表情は少しだけ重くなった。 「それ、私に聞くこと?」 「はい、波音に聞きます。だって、最初に術士のことを教えてくれたのは波音じゃないですか」 「……! ええ、そうね。親友だもの、勿論教えるわ」  それは祖父を失ってすぐ、波音と初めて料理をして昼食を食べた日。  日和は波音に術士のことを教えてくれるようお願いした。  その日を思い出し、波音はにこりと笑って口を開く。 「あなたが望むのなら、こちら側にいらっしゃい。ただし、私達は常に命がけ、最悪今日までの命だってあり得るの。こちら側に踏み込むってのは……分かってるわね?」 「勿論です。私は弥生を倒して夏樹君の家にも首を突っ込みました。竜牙を見送って、今は師隼の家でお世話になっています。もう、何も知らないままじゃ居られません……。これからも、側で沢山のことを教えてほしいです」  あの時と変わらない約束。  状況が変わっても、意志は変わらない。  "術士の娘"から"狐面"になっても、日和は同じ気持ちだ。  日和と波音は互いに視線を合わせると、同時にくすりと笑う。 「分かったわ。これからも貴女の親友として、一緒に居てやろうじゃない」 「ありがとうございます、波音」  互いの気持ちを確認したような気になって、日和の心が温かくなった。  波音は本当にいい親友でいてくれる。  私も狐面をしているんだ、明日からも命がけで頑張っていこう。  波音と共に寝具に潜る中、日和は改めて自分の気持ちを決意して眠りに落ちた。
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