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女王討伐その後
1-1 回帰・1
まるでずっと眠り続けているような感覚だった。
ゆっくりと身体の中心から手の先や足の先まで、神経を通して温かい何かが流れていく。
それが全身に渡って、やっと目を開けることができた。
ぼやけた視界、見慣れない木の板が張られた天井、見慣れない畳の部屋、辺りを見渡して体を起こす。
「…………ああ、師隼の家だ……」
手を見て、体を見て、懐かしさを覚える。
そうだ、俺は半年間ずっとこの体ではなかった。
とても大切なことを思い出した。
「目が覚めたか」
「……竜牙」
いつの間にか部屋と廊下を仕切る襖に式神が立っている。
改めて、女王が施した呪いは解けたのだと実感した。
「なんか、久しぶり」
「ずっと一緒に居たからな。体に問題は?」
竜牙は襖を閉めて隣まで来ると、手のひらサイズ程に小さくなった。
それだけでも式神として元に戻れたのだと心底安心できる。
こうして一緒に居るのも懐かしいくらいだ。
「んー……多分大丈夫。竜牙も元気そうでよかった」
「お前の基礎がしっかりできているからな。私は問題なかった」
「そっか。……今日は何日?」
「今日は10月5日。確か、玲が今日は文化祭だと言っていたな……」
「文化祭……」
「体に問題が無いなら……散歩がてら、行くか?」
断る理由が思いつかず、布団から抜け出し立ち上がる。
体を伸ばせば久しぶりに動かした気がする。
痛みや気持ち悪さはなくて、特に問題はなさそうだ。
「……挨拶したら、行く」
正也は小さな竜牙を肩に乗せ、部屋を出る。
まだ歩くにはふわふわとした感覚がありながら、執務室へと向かった。
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