女王討伐その後

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   回帰・2  執務室では師隼ではない姿が師隼の机を綺麗に整頓していた。  腕に鎖を巻き付けた師隼の弟子、和田朋貴。  師隼は見たところ、何処にもいないようだ。 「おや、お目覚めになられましたか。おはようございます」 「……おはようございます」 「師隼なら生憎10月に入ったので現在虫の息です。麗那様も文化祭でいらっしゃいませんよ。お体はどうですか?」 「俺は大丈夫。他の皆は?」 「夏樹さんと波音さんは治癒で怪我が治ったとはいえ、未だ酷いので療養中のまま……特に波音さんは前回の事があるので、体に強い反動が来てる頃でしょうね。  玲さんはそこまで怪我という怪我がないのでもう文化祭に向かってます。日和さんは今朝早くに起きたんですが……とても酔ってます」  朋貴の口ぶりから皆酷かったようだ。  死屍累々、満身創痍、そんな所だろうか。  特に日和が大変不調であることは察することができた。  元々術士の力はあれど、その力を使った事のない少女だ。  誕生日を迎えて器が安定したとはいえ、力がまた溜まってしまったのだろう。 「いや、違うぞ」  ……と思っていたら、肩に乗っていた竜牙の方から声がした。 「ん?」 「あの女王を倒したのは日和なんだ。日和は蛍やお前の妹の手助けもあって、術士の力を用いてあの女王を倒している。だから日和は今、その反動を受けている」  自分の意識は弥生()と対峙して途切れた。  そこから記憶はない。  だけど、まさか、そんなことになってるとは思わなかった。 「じゃあ……使いすぎて酔ってる?」 「そういうことだな」 「ですね」  世の中何が起こるか分からない。  頷く竜牙と朋貴に苦笑してしまった。 「そういえば正也さん、師隼様から学校の復学時期について聞かれましたよ」 「分かった、父上に相談しておく」  家に帰る理由が出来た。  朋貴と別れ、神宮寺家を出ると外の空気が久しく感じる。  寧ろ先程歩いた感覚すら久しぶりであるのに、自分の足で外を歩くなどどれ程の懐かしさだろう。 「ふらついているが、大丈夫か?」 「自分の背が低い」 「ふっ……憑依換装するか?」 「ううん。さすがに、大丈夫」  こんなにも自分の体で動いているのに、慣れない感覚というのも中々無い体験なのかもしれない。  それはそれで面白く感じながら、正也は一先ず家を目指して歩く。  外は秋晴れ、暑くも無ければ寒くも無い。  風が少しあって、いつもより少し視界が低いくらい。  いや、それが普通だった。  この半年で竜牙の体に随分と慣れてしまったものだと自嘲してしまいそうになる。  そして家に帰れば…… 「お帰り、正也君! 元気そうで何よりだよ!」  父が玄関で満面の笑みを浮かべて出迎えていた。 「……」 「その呆れた様な笑み、懐かしいね! いやあ、正也君が帰ってきたって感じがするなあ」 「……」 「ところで日和ちゃんはまだな感じかな? 竜牙から話は聞いたけど、戻ってくるのが楽しみだねえ」 「……」 「そういえば今日は文化祭だろう? 折角だから楽しんでおいでよ。復学申請は適当に来週あたりにしておくから」  何も言ってないのによく口が回るな、と思ってしまう。  自分の父はもともとこういう人だからもうそういうものだと思うべきだろうか。  財布の入った肩掛け鞄を手渡されたし、とりあえず自分が言えることは……――何もないな。 「……じゃあ、行ってくる」
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