女王討伐その後

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   回帰・3  顔を覚えられていないというのは(これ)幸い、とも言うべきか。  新学期から約2か月弱しか学校には行っていなかったので、そりゃそうだろうとも言いたい。  今日は文化祭だからか、生身で来た学校はとても賑わっている。  生身で校門を抜けるのも久しぶりだ。  いつもは校門で待機しているか、裏門から屋上に向かっていたので新鮮な空気がある。 「あれ、正也だ。私服でもちゃんと来るなんて珍しいね」  そこに声をかけてきたのは校内・校外関係なく視線を集める学校の王子、高峰玲。  本当に体は問題ないようで、ぴんぴんとしている。 「……なんとなく」  ぶっきらぼうに答える正也に玲はくすくすと笑う。 「折角来たんだし楽しんでよ。地図ある?はい、これ」 「ん……」  にこりと微笑む玲から手渡されたのは、文化祭用の校内地図だ。  見た所校門から校舎、中庭に屋台が並び、教室は展示や体験型の催し、お店でみっちり埋まっているようだ。 「あ、正也のクラスはもう少し行った先の右側だよ」 「……まだ何も言ってない」  なんとなく、先に行こうとしていた所を言われるのが(しゃく)だ。  正也は少し複雑な気持ちになった。 「あ、あの、高峰先輩……!!」 「ん?」  自分の背後から声が聞こえ、正也は反射的に身体を逸らす。 「よ、良かったら私たちのクラス……後で来てください!」 「わ、私のクラスもお願いします」 「うん、分かったよ」  玲はにこりと女子生徒に微笑みを返す。  すると黄色い声を上げて女子生徒が去っていくのが見なくても分かった。  流石王子扱いされている人間だなと思う反面、面倒だし煩わしさを感じるのはなんでだろう。  俺自身は静かに居たいし、御免(こうむ)りたい。 「……それじゃ」 「あ、正也待って」 「?」  行こうとすると呼び止められた。  そしてペンを出し、先ほど渡されたばかりの地図にサインを入れられる。 「あとでここに寄って。で、早目に帰るよう伝えておいて」 「……? ……分かった」
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