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1-2 文化祭・1
何も考えてない。
深い意味なんてない。
それでも確かに居たその存在を確かめたくなった。
玲が言っていた回収物の方へ行くその前に、俺は自分が通っていた教室の、その前の廊下へと向かった。
中の教室も例によって使われているらしい。
だけど模擬店や催し物じゃなくてよかったなと少し安心できる。
机や椅子は端に積まれているけど、新聞部の今年に出した新聞が並んで展示されていた。
「どうした? 正也」
「……ちょっと、確認したかっただけ」
「……?」
生憎このクラスが並ぶ廊下はどこも何かしらの展示品ばかりのようで、静まり返っている。
おかげで人の気配がないのをいいことに、鞄から竜牙が顔を出して訊いてきた。
それでも俺はただ一つの場所だけを見つめる。
廊下に並ぶ小型のロッカー。
その内の一か所には『奥村弥生』と書かれている。
そう、妹のロッカーだ。
流石に鍵がかかっているだろう……と思いつつ、無意識にその扉に手を伸ばす。
――ガチャッ
「……!」
開くとは思わなくて、少しだけ吃驚した。
心臓が跳ねて、ロッカーの中を覗く。
「……手紙?」
中にはいかにも女子が好きそうな可愛らしい一通の手紙だけが入っていた。
見てもいい物なのだろうか。
そう思いつつ、今はもう居ない妹が書いたであろう手紙を開く。
『お兄ちゃんへ 日和のことヨロシク。何かあったらもっかい呪う!』
「……ぷっ」
丸々とした文字ではっきりと真ん中に書いてあったので、つい吹き出してしまった。
あまりにも関わりが少なくて、今年に入ってやっと少し会話しただけの妹。
この街で妖の女王となって君臨していた妹。
自分に呪いをかけて欲のままに動いていた妹。
……にしてはやけに簡潔で分かりやすい内容のメッセージがそこにはあった。
性別は違っても、その言葉の意味が分かる。
これが兄妹なのかもしれない。
一緒に住んでいなくても、血の繋がりを感じた。
「……うん、分かった」
それだけで心は満足して、手紙を回収してロッカーの扉を締めた。
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