女王討伐その後

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   文化祭・2  それから廊下を再び歩き、今度は家庭科室の隣の教室へと向かう。  玲から頼まれた用事だ。 「……で、何で来てるの?」 「……店番」 「……」 「……」  印の書かれた教室に向かうと、玲と東が言ってた人物が本当に居た。  頭、腕、足、制服で見えないが本来なら腹部も包帯を巻いてる重症者の筈だ。  術である程度は治ったとはいえ、身体の負担と癒しの力の異常使用で反動が来ている筈。  そう思ったのだけど、それにも(かか)わらず教室の端でぽつんと座っていた。 「他に人は」 「先日死んだ」 「……」 「……」  どうやらこの教室の担当は奥村弥生らしい。  教室の中には値段と一緒に様々な物が置かれている。  アクセサリ類や髪留め、マフラー、帽子――女性が使うような物が多い。  どうやら手芸部の展示兼販売をしてるらしい。 「……あと15分待てる? 交代が来るはずだから」 「分かった」  波音の横にある椅子に座る。  あまりにも暇で、ぼーっとしていると波音は顔を覗かせてきた。 「クレープ食べた?」 「食べた」 「そう。どれにしたの?」 「キャラメルバナナ」 「……あんたって結構甘いの好きよね」 「写真が綺麗だったやつを選んだだけ」 「その写真の、日和作よ」 「……さっき聞いた」  何故か波音がにやにやと笑っている。  少し気持ち悪い。 「あの子も来られればよかったのに、残念よね」 「逆に波音が来てるのに俺は驚いている」 「わ、私の事はほっといてよ。一人減って困ってそうだったから代わりに出てあげたのよ……」  波音は波音で義理堅い。  そんな事は知っているから、なんとも言えない。  特に、その人間は自分達が殺したような物だから、一種の罪滅ぼしのようなものだろうか。 「きっと日和、来週は元気ないわね……」 「……」  途中で買った紙パックにストローを刺し、喉に流す。  正直に言うと、自分から言うことは何も無いだろうと思う。  起こってしまったものは、仕方がない。 「……あんたは気にしてないの?」 「何が?」 「一応死んだの、あんたの妹でしょ」 「……今更何を思ったって、変わる訳でもない」 「あんたねぇ……。まあ、らしいっちゃらしいけど……」  波音はため息をつきながら、包帯の巻かれた腕を摩る。  ショックを受けているのは誰だって同じ、その気持ちは変わらないだろうに。 「……あ、せっかく来てるんだからここの中から何か買ってよ」 「何で」 「客」 「……」 「基本的に無表情なくせに、ここぞとばかりにそんな嫌な顔しないでよ」  あからさまに不機嫌な顔をされた。  表情には出してないつもりだが、伝わったらしい。 「気が向いたら」 「絶ッ対に気が向かないやつだわ……」
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