11人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
21
タルドゥは一本一本の木を巡って歩いた。樹皮に触れると、死者の身体に刻まれた記憶が再現された。それは他者の人生にひきずりこまれるような経験だった。タルドゥはエトルリアの民の痛みを共有した。
イニストラードが言っていた絵空事、神々を滅ぼし、人間の世をつくる話を思い出した。同時に、このような状態に置かれたものを立ち上がらせ、味方につけることの困難を思った。
イニストラードのような大きなことを考えるのは、自分には向かない。
手の届く範囲の、顔の見える人間のことしか、自分には考えられない。
タルドゥはそう思った。
今は、ブランウェンだ。
この場所でブランウェンを見つけられるとしたら、それは彼女がすでに死んでいるということだったが、そのことは考えないようにした。
タルドゥは歩きさまよい、探し求めた。何人めの記憶か、数えるのをやめたころ、タルドゥはついに巡り合った。
その記憶の中に、自分がいた。ヨーリオンがいた。アリアンロッドがいた。白く輝いていたころのキンメリアの城壁と、海辺の小さな村があった。簗の仕掛けられた川のそばに、彼女は住んでいた……
※
最初のコメントを投稿しよう!