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 アシュタロテは目立たぬ姿になって、エトルリアの都の周りを歩いた。壁外の村を見、兵士たちを観察し、兵士たちの慰めのために家畜のように飼われている女たちを目の当たりにした。タルドゥが死者たちの記憶に見たものと、同様のものをアシュタロテもまた見た。  そして彼女は認めた。  イニストラードは正しかったと。  イニストラードの真意がなんであったにせよ、彼が唱えたことは正しかった。  神々の支配する世界は、終わりにしなければならない。  自分に与えられた力を、わずかな命の残り火を、何に捧げるべきか。  アシュタロテは覚悟を決めた。  太母神は、滅ぼさねばならない。    都を包囲する兵士たちは、異様な静けさに包まれ慄いていた。  都を三方から取り囲む海から、波音が絶えていたのだ。  キンメリア城内で育った者たちには、それ以上のことはわからなかった。闇の民と壁外の民は、彼らには見えないものを見ていた。  海は、はるか沖合にまで退いていた。隠されていた海底が、どこまでもその生白い素肌を晒していた。  海水はどこに消えたか。  それは切れ目なく続く途方もなく大きな水の壁となって、エトルリアの砂洲を見下ろしていた。  彼らには知る由もなかったが、それは、この大地にかつて訪れたことのない、巨大な高潮の前兆であった。
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