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 肉色の壁で包まれた、壺のような形の部屋であった。玉座も壁も部屋の調度も、石でも木でもない、得体のしれないぶよぶよとしたもので作られていた。  玉座の間はまるで、太母神の肥満して緩み切った体の延長のようであった。  太母神の足元には女が転がっていた。以前は、手足を縛らて火のそばに転がされていた女。今は腕を切り落とされ、足を切られ、頭と胴だけがつながっていた。  四つの傷口は焼灼され、血止めが行われている。その女の顔を、太母神の肥大した足が踏みつけていた。舌を切られているために、女は苦痛の叫び声をあげることも、殺してほしいと訴えることもできなかった。  オジマンディウスの死に対する太母神の怒りのために、女はそのようになった。  今、太母神は落ち着いて見える。顔の肉の中に埋もれたボタンのような小さな目は、楽しげにさえ見える。弱者に対する一方的な暴力が、怒りと嘆きに対する何よりの薬なのだ。  部屋の隅、天井近くの一角がどろどろと溶けて、肉色をした女の顔が現れた。目も鼻も頭髪もなく、耳と口だけが残された顔だった。  顔は言った。 「父祖神様を殺した女神が、都の上に来ています。侵入するつもりのようです」  太母神は無言であった。ボタンのような目をしたその顔の、口元だけが、ニタァと笑った。  太母神は指一本動かすことなく、誰かに指図することさえなしに、都のすべてを制御することが可能であった。太母神は城門の一つを開いた。城門から玉座の間へ続く扉を、順に開放していった。  女の顔をしたものは少し不安げな様子をみせたが、何も言わずに壁の中に戻って行った。  太母神の足の下では、いつのまにか手足のない女が頭を踏み割られていたが、もう女神は女に関心を失っていた。  都じゅうに張り巡らせた神経索が、敵の接近を次々と伝えてくる。  そして、玉座の間にその女神は現れた。 「初めまして、太母神様」予想よりも若い、ほんの小娘が言った。「あなたを殺しに来ました」
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