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 黄金の瓦礫。無数の人間の死骸と、神々の成れの果てであろう、いくつもの塩の柱。そんなものが転がる荒れ野を、アリアンロッドは進んでいく。  すり鉢状をしていたはずの濠はすっかり埋もれ、どこにその中心があるのかもわかり難い。  しかしアリアンロッドは感じる。  巨人の心臓の脈動を。  あるべき場所に帰ろうとするその意思を感じる。  それに近づくにつれ、魂の中に力が流れ込むのを感じる。  半神だからではない。それが理由なら、神々も塩の柱になってはいないだろう。  そうではなく、巨人の心臓が正当な所有者のもとに帰ろうとしているからだ。  原初の戦いのとき、神々は火の巨人を滅ぼすことができなかった。  彼らにできたのはただ解体することだけで、バラバラになりながらも火の巨人は生き続けた。  あたかも、この大地そのものを新たな肉体とするかのように。  だが、それも終わる。  火の巨人は蘇るのだ。  あかがねの指輪がかすかな火花を発し、ぴりぴりとした痛みが走る。  つかのま、アシュタロテの見ている光景が視界に流れ込んできた。  不安に震える、武器を持たない人々。乳飲み子を抱えた女。しっかりと弟の手をつなぎ、混乱のなかで勇気を振り絞る、幼い兄。  キンメリア軍の背後にいる彼らを、アシュタロテは山の頂上に運んでいる。しかし、自身と一緒に電光と化せるのは一度に三、四人までにすぎない。猶予の時間は短い。アシュタロテの命の限界も近い。避難民のすべてを運びきることはできまい。  だがそれでも、アシュタロテはやるつもりでいた。人は死ぬ。神々さえも永遠ではない。限界があるのは当たり前のことだ。限界があるなら、限界まで挑み続ける。  アシュタロテは、そうした覚悟を抱いていた。  世の終わりは近い。復活のときは近い。  アリアンロッドは指輪をつけた手を高く掲げる。大気中の雷精たちが、指輪の呼び声に応えて集まってくる。  そのまま腕を振り下ろし、雷精の渦を黄金の瓦礫の山に叩きつける。  巨大な瓦礫たちが、沸騰するようにつぎつぎと爆ぜ、アリアンロッドの前に道を開いていく。すり鉢状の濠が、そしてその底にあるものが露わになる。  巨人の心臓。  それはもう血を流してはいない。有り余るちからに燃え輝き、灼熱している。  アリアンロッドは歩いてゆく。  眩い光の中で、アリアンロッドの肉体は溶けるように消えていく……
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