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序
原初、世界は闇であった。
時に昼もなく夜もなく、天に太陽もなく星もなかった。
ただ、キンメリアの都の神殿の頂で、真鍮の炉に燃える無尽の火だけが、かすかに周辺の地上を照らしていた。
あるとき鍛冶神が幻視をした。父祖神の血を引く子供が、父祖神を殺すという予言であった。父祖神はこの予言が漏れることを怖れて鍛冶神を地下に封じた。すでに産まれている男児と孫たちを殺し、数多の妻たちと女たちに、これからは子を産んではならないと命じた。
しかしこのとき、ある姫神がすでに身ごもっていた。父親は人間であった。
姫神は、都のはずれのあばらやに身を隠し、人知れず子を産んだ。姫神は生まれた男児をうつろ舟に乗せて川に流した。その手に、神族の紋章を刻んだ銅の指輪を握らせて。
都の外、川下にひとつの村があった。
ある朝、川にかかった簗を見回りにきたヨーリオンという人間の男が、うつろ舟に目をとめた。ヨーリオンは赤子を見つけ、我が子として育てることにした。赤児がその手にかたく握っていた指輪は隠し、妻にも見せなかった。
指輪に刻まれたその子の名は、アリアンロッドであった。
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