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「いやあ、なんか悪いねえ。苦学生の良樹にケーキを奢ってもらえるなんて」
「奢らなければずっとくっつかれたままだったからな」
「あ、なるほど! 今度から良樹に奢ってもらいたい場合は腕を絡めればいいんだ!」
「何がなるほどだ、何が。言っとくが、奢るのは今回だけだぞ」
「えええ!? じゃあ次からはその先をご所望で? んんん、出来るかな~」
何を言ってるんだ、こいつは。
「でもわかった、頑張る」
「頑張らんでいい」
まずい、どんどん夏美のペースにはめられていく。
昔からそうだったが、夏美はいつも場を緩ませるのが得意だった。
良い意味でも悪い意味でも。
まあ、それが彼女の持ち味なんだろうけど。
「わあ、見て見て良樹! おいしそう」
そんな夏美は僕の想いなどお構いなしでメニューを見て感嘆の声を上げていた。
「あ、ほんとだ。おいしそう」
その喫茶店はメニュー表を写真入りで表示していて、確かに美味しそうだった。
とたんにさっきまでソフトクリームを食べていたにも関わらず、お腹が鳴る。
「迷うなあ、どれがいいかなあ。全部頼んで一口ずつ食べるって手もあるなあ」
「そんな手はない」
「気に入らなければ良樹に食べてもらって、別のを頼めばいいしなあ」
「だからそんな手はない! っていうかそれ、お店の人に対して失礼だろ!」
結局、夏美はフルーツがてんこ盛りの長ったらしい名前のパフェを頼み、僕は濃厚そうなティラミスを頼んだ。
夏美曰く「フルーツだったらハズレがないよね」とのことだった。
結局、失礼なやつだった。
僕らはその後、喫茶店でケーキを堪能し、いつものように映画を観て公園を練り歩き、夕方頃に別れた。
「じゃあね良樹。また来週!」
そう言って手を振って帰ろうとする夏美を慌てて呼び止める。
「待て待て待て待て。来週ってなんだ、来週って」
「え? デートの約束ですけど?」
なに「デートの約束ですけど、なにか?」みたいな顔をしてるんだ。
勝手に決めるな。
「なあ、言おう言おうと思ってたんだけどさ、もうやめようよ、こんなの」
「なにが?」
「こうやって遊ぶの」
「なんで?」
「だって不自然だよ。僕は夏美の彼氏じゃないし、夏美も僕の彼女じゃないだろ? 僕ら幼馴染みで昔から仲良かったけど、大きくなってからもこういう関係ってあまりよくないと思う」
「そう……かな?」
「そうだよ」
「そう……かも」
「だろ?」
「そうだね、あんまりよくないよね、こういう関係って」
ちょっと寂しそうに笑う夏美の顔に少し心が痛む。
ああ、そうか。
こいつは本当に純粋に僕と一緒にいることを楽しんでたんだ。
昔のままの関係を続けたがってたんだ。
でも僕は今日、言ってやった。
もうやめようって。
これはよくないって。
それが正しいかどうかわからないけど、このままじゃ少なくとも夏美には彼氏ができない。
僕の存在が邪魔をする。
それぞれの道を歩くならこれがベターな選択だと思った。
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