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小宮玲(こみやれい)、通称これ。みやちゃんとか、れいくんとか呼ばれたかったのに、なぜか略称で呼ばれがちな今日この頃。
「局地的な大雨警報が発令されています。不要不急の外出は控えてください。」テレビのキャスターが同じことを言っている。『不要不急の外出』か。ここ最近耳馴染みがよすぎる言葉だと思う。
食べ物がないからスーパーに行くのは必要。
仕事に行くのは必要。
学校に行くのはよく不要になりがちで、今日も学校からの一斉メールで本日休校のお知らせと、今日やるべき課題一覧が送られてきている。
友達に会いたいから出掛けるのは不要。
畑の様子が心配で出掛けるのは不要。
川がどうなっているのか見に行くのは不要。
コンビニでアイスを買いに行きたいのは不要。
もしかしたら、コンビニであいつに会えるかもしれないのも不要。
そうでもしないと会う可能性がとっても低いのも不要。
自分のしたいことが不要と言われるのは、ちょっと凹む。
「出掛けちゃだめだから、休校なのよ。家にいてね。」
仕事に行くママが、私に再三注意をして出かけてしまった。仕事は必要だから仕方がない。
車に乗り込むまでと駐車場から職場に向かうまでに雨に濡れるのも必要なことなのかしら。
少し冷めたコーンスープと、かどっこが少し焦げているトーストを時間をかけて食べる。
まだお腹に余裕がありそうだったので、冷蔵庫を開けてヨーグルトも取り出して食べる。
テレビでは再三避難警戒地域を伝えているし、スマホは緊急アラームを鳴らしている。
土砂災害も河川氾濫も私が住んでいるところには直接被害はない。私の感覚としては雨強いな。と思うのと、学校休みでラッキーと思うことぐらいだった。すると窓を叩く雨音が呑気な私の考えを否定するみたいに強くなった。テレビの音がちゃんと聞こえないのでリモコンを探して電源を消した。
雨の勢いがどんどん激しくなっていく。窓の外が白い。
窓の外から救急車のサイレンの音がする。
市役所の防災呼びかけのスピーカーが雨の音に負けじと張り合っている。家の中の静寂と相反している。
「コンビニ行きたいな。」家から徒歩1分ぐらいの所にあるコンビニ。ちょっと、お菓子を買いに行ったり、ちょっとアイスを買いに行ったり、ちょっとあいつがいないかなと覗きに行ったり、しょっちゅう通っている。
出掛けちゃだめだとママに言われている。不要不急の外出は控えるようにとテレビに言われている。
あいつに会いたいと思う気持ちもダメなのかな。不要になっちゃうのかな。
それってなんだか、自分を否定されているみたい。
YouTubeを見る気も、もちろん課題をする気にもなれなくて、窓の外をじっと見つめていた。空は灰色で何重にも分厚い雲がそこにあって、どこからこんなに水を仕入れているんだろうかってくらい垂れ流して、ベランダの汚れをどんどん洗い流していく。
私のこの気持ちも洗い流されたらどうしよう。これの気持ちもなくなってしまったら、コンビニに行ってもドキドキできない。ワクワクもしない。どうか、お願い。これの気持ちを不要と言わないで。これからもこの気持ちと一緒にいたい。
これからもよろしくお願いしたい。
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