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今年もまた夏が巡ってきた。
相変わらず何も進展しない私たちだったけど、それでも月に2回くらいは会っていた。
今では彼のおすすめのカフェやお店で、ランチを食べるのがふたりの楽しみだった。
それに意外にも彼は植物が好きで、長谷寺の季節ごとに移り変わる花を見に行くのも付き合ってくれた。
『よく写真撮って、七海に見せてたんだ』
いかにも彼らしいエピソードに、私も口元が緩んだのを覚えている。
今日は鎌倉駅で待ち合わせだった。
少し早く着いたので、時計塔が見える日陰で涼んでいると、自分と同年代の女性がこっちを見てるのに気がついた。
私と目が合うと、彼女は意を決したように近づいてきた。
誰…?
当然のように湧いた疑問は、彼女の第一声でどこかへ飛んでいった。
「あなた、結人の何なの」
「…何、突然」
「結人はまだ、お姉ちゃんのこと忘れてない。放っておいてあげて」
七海さんの…
「その気もないくせに、振り回さないでよ」
痛いところを突かれた。
だけど、他人にどうこう言われることじゃない。
お互いが必要なのは、自分たちが一番よくわかっている。
「じゃあ、あなたから結人に言ってよ。あたしに構わないでって」
彼女はうっすら涙を浮かべて、私を睨んだ。
「あれ。愛海ちゃん」
結人の声がした。
泣くのを必死に堪えて、彼女は背中を向けて走っていった。
聞かれちゃったかな…
『あたしに構わないで』
自分の言葉が胸に刺さった。
もちろん本心ではなかったけど、そんなことをこれっぽっちも思ってなかった自分にも驚いた。
今の結人との距離が心地よかった。
そして、結人と一緒にいられなくなることに、最近の私はとても不安を感じていた。
「…何かあった?」
「あたしが結人の何なのかって」
私はわざと明るく言った。
結人は少し戸惑っていたけれど、すぐに笑顔になった。
「何って、大事な人に決まってんじゃん」
「彼女に言ってよ」
「あの子もシスコンだからなぁ」
結人はがしがしと頭をかいた。
そして、何か思いついたように言った。
「今日は予定変更」
「え?」
「俺がバイトしてる店に行こ」
一瞬、顔が強張ったかもしれない。
彼がカフェでバイトをしているのは知っていたが、お店には一度も行ったことがなかった。彼は誘ってくれたのだが、私が勝手にハードルを上げてしまっていたのだ。
友達でも 彼女でもないあたしに
そんな資格ないよ
でもそんなのあってもなくても、いつかは来る時が早まっただけだ。私は大きく息を吐いて、結人についていった。
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