女郎蜘蛛の褥

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明け方、ベッドの上で目を覚ます。ぶぅんと動く扇風機の音。動かぬ身体で目だけを動かす。変わらぬ景色、変わらぬ風景。 だがその日はほんの少しの違和感があった。見上げた視線の先、部屋の隅に一匹の女郎蜘蛛。必死に手足を動かし、小さな巣を作っている。 暑いのに御苦労なことだ。 じぃじぃと鳴き続ける蝉の声を聞きながらその巣作りを眺める。いつの間にかまた眠りに落ちていた。 「おじーちゃん、御飯ですよー!」 喧しい声に目を覚ます。部屋にずかずかと無遠慮に立ち入って来たのは中年の女。 相変わらず雑な女だ。 ガサゴソと荷物から道具を出す姿を見るとふんと鼻から笑いが出る 「はいそれじゃあ始めますねー!」 女の手の中には注射器。胃とチューブで繋げられたそれにゆっくりと餌がながれていく。 あぁ、情けない 「それじゃあ身体を拭きますねー!」 服を脱がされ、全身を濡れタオルで拭かれていく あぁ、情けない 「それじゃあ捨ててきますねー!」 バケツに垂れ流した汚物袋の口を縛りビニールに入れる あぁ、情けない いつもこの時間は憂鬱でたまらない。 寝転んだベットの上、ぼうっと部屋の隅を眺める。 巣をはり終えた女郎蜘蛛がじぃっとこちらを見ている。 「それじゃあ明日もまた来ますからね!」 仕事を終えた女が来た時と同じで騒々しく帰っていく。 あの女、とうとう蜘蛛には気付かなかったな 一人くくと笑いながら、静けさを取り戻した部屋でまた眠りに落ちる 気がつけば見知らぬ場所に居た。 どこかの和室、引かれた布団の上。 私の身体に和服の女が私に覆い被さる。 ふふと笑うその女の唇が私の肌をくすぐる 伸びた舌が指をしゃぶり、首筋をなめる 白い歯がふとももに噛み付き、乳首を甘く噛む 柔らかな手が唇をなで上げ、陰茎を包み込む 「あぁ」 漏れた声に自分でも驚く。声を出したのはいったいいつの事だったろうか 女が着物の衿をはだける。こぼれ落ちた乳房、真っ白なそれが私の上で揺れている ふるふると震える腕でそれを掴む 「はぁ」と女から漏れる吐息 女の唇が私の胸元にかぶりつき、痺れと共に小さな痛みが走る 口を離した女の顔は流れ出た私の血で真っ赤に染まっている はぁはぁと荒い息と共に目を覚ます 暗闇でも伝わる慣れた寝具の感触、ぶぅんと動く扇風機の音 夢だったか 動かそうにもピクリとも動かぬ手を感じながらため息を付く はは はははは ははははははは 空気の抜けたような笑い声 あぁ、濡れた股間が気持ち悪い あの女、明日どういう顔をするだろうな。そう思うと笑いが止まらない 暗闇に目が慣れてきたのだろう、段々と部屋の形が見えてくる。 目を凝らすと蜘蛛の巣が天井いっぱいに張り巡らされている。 そこから伸びた何本もの糸が垂れ下がり私の身体を覆っているだろう 「構わんさ」 巣の真ん中でじいっと見つめる女郎蜘蛛に声をかけ、再び目を瞑る 想像よりもずっと人間らしい死に方が出来そうだと笑いをこらえながら
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