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俺らの頃は
「ホンマにイマドキの若いもんはどないなっとんねん」
俊介がぼやく。給湯室で俊介の分のコーヒーも用意しながら愚痴を聞いている。
「何でもやってもらえると思とんねん。学校でも家でも甘やかされすぎやわ」
黙って聞きながらコーヒーを渡す。
「俺らの頃のほうが厳しかったよな」
はい、でました「俺らの頃」このところ俊介の口癖になっている。
「甘いよなー 俺らの頃に比べて」
また「俺らの頃」がでた。最近の学校には通ってないし、よその家庭もそれぞれやねんから甘いかどうかなんかわからんわ。
「そう思わへん?」俊介がこちらを見る。
「コーヒー冷めるで」
俊介は同意がないのが不満そうな様子でコーヒーを口にした。
俊介は同期入社だ。付き合い始めてから3年目。今も一応恋人だ。
入社した頃は先輩や上司に対して、
「イマドキあんなこと言われてもなーもう時代が違うねん」
とかしょっちゅう文句を言っていた。
先輩や上司も私達のことを「イマドキの若いもんは」と思っていた事だろう。自分がその時の「時代が違う先輩」になったと何故気がつかないのか不思議でしょうがない。
「あの…上野さん、ちょっとよろしいですか…」
給湯室に女の子が入ってきた。
「チェックしていただいていいですか?」
俊介に書類を渡しながらこちらをチラっと見て軽く会釈する。同じくこちらも会釈を返した。
「ちゃんと今日のデータ見て数字出したんか?」
「……まだ今日の分がなくて…」
「中原か。アイツ毎回仕事遅いねんから…催促したんか?」
「いえ…あの…まだ……」
「遠慮しとったら仕事にならへんやろ!」
「……はい」
「あーもう、一緒に行くから来て!」
「すいません……ありがとうございます」
俊介は「行くわ、ごちそうさん」と私に飲みさしのコーヒーが入ったマグカップを手渡すと女の子を引き連れ出て行った。給湯室を出る直前こちらを見た女の子の目が怖かった。
あんなえらそうに言われても俊介のこと好きなんかなぁ。今日だけじゃないもんなー 睨まれたの。
俊介に渡されたコップを見ながら、当然のように渡して行ったけど洗っとけってこと?とちょっと、いやかなりムカついた。
少し前までは当たり前に洗ってあげてたのに。いつからこんな感じになったのか自分のことなのにハッキリしない。後輩の女の子にえらそうに言いながらも、ちょっとうれしそうで得意げな俊介をもう可愛いなとは思えなくなっていた。
私を睨みつけるほど俊介が好きならさっきの子にくれてやってもいいかも知れない。めんどくさいから二人がデキてしまうまで待っとこかな。俊介、結構プライド高いほうやからこっちから別れようとか言うと意固地になりそうやし。
「好きな人が出来た スマン別れてくれ」
そう言って頭を下げながら俺ってモテる男やなと悦に入っている俊介を思い浮かべてみる。そっちの方が楽かも知れん、あと腐れもなさそう。
マグカップについた泡を水で流しながらそんなことを考えていた。
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