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星を視る人_プロット
★秋 コンビニ レジ★
今から二百年前の地球は膨大な数の隕石に見舞われていたという。昼も夜もなく降り注ぐ星は人々の頭上をあまねく照らした。一週間続いた天変地異のあと、生き延びた人類はひとりひとりが星を得た。
星というのは、私や目の前で唾を吐き散らし喚いているモンスタークレーマーのクソジジイもといお客様の周囲に浮かんでいる手のひらサイズのアレである。
爺さんの星は緑色の唐辛子みたいな色をしている。私の星は澄んだガラス玉の中に色々な文字が漂っているという、小説好きオタクにありがちな様相を呈していた。
二百年経って星と魔力を我が物とし、文明を飛躍的に発展させたとしても人の心の有り様は変わらないのだろうか。田舎のコンビニでトラブル起こしてる時点で二百年前の昭和末期から何も進歩していないことは分かる。
「――聞いてるのかって言ってるんだよ、クソ女!」
とても苛立ったのか、レジカウンターが無茶苦茶に叩かれる。魔力で強化しているのだろう拳がカウンターをふたつに叩き割る。よほどの衝撃だったのか、カウンターは破片を撒き散らしながら木片になってしまった。
頬と耳になにかが当たる感触がする。一拍おいて熱と痛みがやってきた。破片がかすめたらしい。ガラスが割れる甲高い音もした。損害賠償金、どれくらい貰えるかなぁ。
後ろに並んでいたお客様たちがバラバラに悲鳴を上げてパラパラと逃げていく。私もここで仕事してなかったら逃げたい。
「警察を呼びますね」
震える手でメニューを操作してタブを切り替え、警察へ通報する。拡張現実とファンタジーが融合したおかげで、こういうとき不便なのか便利なのか分からなくなってしまう。
私は話すことが苦手だから恩寵に預かっているほうかもしれない。
なおも喚く爺さんは顔色が赤を通り越して紫になっている。足をバタつかせ口から泡を吹いて――。
「……えっ?」
私とお爺さんの間に、二足歩行のソレはいた。
おでんの什器よりも頭一つ分高い身長の黒いなにかが、爺さんの首を片手で締め上げている。人類ではなさそう。
腰ベルトに吊るしていた弊社謹製ダガーを抜き放つ。ほんの少し魔力を込めれば刀身が黄色に輝いた。
震える足で踏み出し「おわっ」盛大につんのめった。爺さんの星が助けを求めるようにすり寄ってきてバランスを崩したのだ。私の方を振り返った黒いナニかには顔もなく鼻もなく、ただ口だけがあった。左右非対称の笑みを浮かべた口から聞くに堪えない雄叫びが発せられる。
「ぐぅっ……。なにこれ。生き物の出せる音なの?」
脳みそを直接かき混ぜられるような不快感と酩酊感で立つことはおろか息をするのも苦しい。虫唾の大群が背筋を走り抜けていく。よろめく足を支えられず、大小さまざまな木片の上へ倒れこんでしまった。痛い。視界の端でナニかが幼児のように笑った。怖い。
もがいていた爺さんは完全に脱力して白目を剝いている。危ない。とても危ない。魔法で身体を強化できる新人類といえど、呼吸できなければ死んでしまう。
恐怖と体調不良で情けなく震える手を叱咤しつつ魔力を流す。シューティングゲームで培ったエイム合わせの技術を駆使し、強化した手でダガーを投擲した。
ナニかの胴体あたりに刺さったのが功を奏したのか、床へと爺さんが放り出される。ひどい顔色だがそれでも小さく声を上げた。胸も動いている。星も元気そう。生きている。よかった。
★近づいてくるナニか★
「ン。まあ、そうなりますよね」
誰にともなく敬語でボヤき、天を仰ぐ。身体に力が入らない。★歪な影が私の上に落ちた。★
★首に手をかけられ、圧迫される★
視界が光の点滅で暗くなっていく。誰か。……誰か。
「祓い給え」
男性の声が聞こえた。
それから鈴の音がして、空気が震える。
ナニかは弾かれたように私たちから距離を取った。
咳き込む私を守るように立ちふさがったのは、ひとりの警察官だった。
「清め給え」
先ほどの声は彼から発せられたらしい。低いがよく通る声は耳に心地いい。鈴の軽やかな音がするたびにナニかは苦しむような声を上げている。
「守り給え」
★なんか神秘的な感じ。警察官から発せられる、いい感じの青い光。店内の空気が清められていくような感じ。普通に呼吸できるようになる★
「幸い給え」
ナニかはとうとう、乳幼児のようにフニャフニャ言いながら小さく丸まってしまった。それこそ手のひらに載せられるくらい縮小している。警察官は自分の星にナニかを乗せると、私のほうへと向き直った。
しゃがみこんだ彼と目が合う。声が素敵なわりに顔は怖い。三白眼で睨みつけられる。
「怖かったでしょう。もう大丈夫ですよ」
「ふぇ? あっ、はい」
「すぐに増援が来ますからね。引き継ぐまでお待ち下さい」
声と表情の不一致感がすごい。火がついたように泣く子も微笑むだろう優しい声とは裏腹に、顔がすごく怖い。
笑った子が泣き出しそうなほど大きな古傷がいくつもある。
顔以上に古傷だらけの腕が手際よく爺さんの処置をしていく。時折無線で話しているのは、先ほど言っていた増援の方々だろうか。
救急車とパトカーのサイレンが近づいてきた。一番重症の爺さんを搬送したり現場検証が始まったりで店内は一気に騒がしくなった。
上を見て右を見て、下を見て左を見た。ない。いない。さっきから私の星が見当たらない。探そうにもまだ立てない。芋虫よろしく這っていると「失礼」と声が降ってきて視界が一気に上昇していく。わぁ、お姫様抱っこされた。さっきの外見めちゃこわ警察官さんだ。引き継ぎは終わったらしい。
「おまたせしました。これから事情聴取に移ります」
「あのっ。私の星を見ませんでしたか。いなくなってしまって」
「それでしたら、もう見つけております」
「そうなんですか? よかった」
「後ほど星についてもご説明させていただきますね」
「はい!」
★バックヤード、情報管理室★
★ファンタジーちっくな防犯カメラと管理責任者・警察官による個人情報保護云々の宣誓★
★防犯カメラは直径3メートルの水晶玉★
★おでんがぬるいとイチャモンつけてきた爺さんの一連の行動と音声を見る警察官★
★星のゆくえ★
★星は化け物になっていた★
★過度のストレスにさらされると星は割れて暴走してしまう★
「と、いうわけで本日より専属の担当医になります」
「お医者さん? えっ? 警察……えっ?」
「まあそのあたりは、おいおい」
「いま説明してくださーーい!」
「まずは病院に行きましょうね」
★俵抱きで担ぎ上げられる★
これからどうなっちゃうの〜〜!?的な
★滋養と休息、お金と投薬により星と持ち主を癒やすための特務警察官★
★壊れた星はもとに戻らない★
「前職は心療内科医をしておりました」
「じゃあ転職してから鍛えられたんですか?」
「いえ。昔からです。トレーニングは好きだったので」
手続きなども手伝ってもらい、五年ほど穏やかに暮らす。
その後色々あって結婚。めでたしめでたし。
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