AIは嘘をつけない

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 AIは嘘がつけるのか、私の答えはノーだ。  例えば、文章生成AIに適当な作品のあらすじを書かせると、本来その作品に登場しない人物や全く異なる展開を書くことがある。  どこかの大きな会社が優秀なAIを開発し、その性能を披露するためにAIに歴史や過去の出来事を語らせたところ、事実ではない誤った歴史を話した事で会社の株価に悪い影響が出てしまったなんて話もある。  こうした事から、「AIは嘘がつける」「将来的にAIが人間を騙して陥れようとするんじゃないか」なんて不安を覚える人も居るだろう。  だが、世間一般で言う”AIの嘘”とは、”結果的に嘘になってしまったもの”なのだと私は思う。  例えば、Aさんは友人であるBさんから「〇〇という店に行きたいんだけど、場所を知ってる?」と店の場所を尋ねられたとする。  Aさんは過去に何度かその店に行ったことがあったので、その場所をBさんに教えた。  BさんがAさんに教えてもらった場所に行くと、そこに目当ての店は無かった。その店は数カ月前に別の場所に移転していたのだ。  BさんはAさんに嘘をつかれたと思った。  Aさんは自分の知っている情報をBさんに伝えただけで、嘘をつきたかった訳ではない。AIも同様で、人間からの質問に対して自分の知っている情報を伝えているだけなのだ。  ”所有している知識や情報の間違い”であり、”嘘”ではない。  これが私の考える”AIの嘘”の正体だ。  私が所属しているチームはとあるAIの開発に心血を注いでいた。  AIの名前は「アポロン」、その目的は”未来予測”だ。  アポロンの未来予測が実現すれば、これから起きるかも知れない人生における重大な事故や悲劇を回避できるはずだ。  では、どうやってAIに未来予測をさせるのかというと、その方法はいたってシンプルだ。  未来というのは過去の出来事の積み重ねの上に生まれるものである。ならば、過去の出来事をすべて知ることができれば、未来の出来事もある程度は予測する事が可能になるのではないか。  過去の様々な出来事を情報としてアポロンに学ばせる、たったそれだけで未来を予測する事が可能となる。  しかし、これが何よりも難しかった。  先述した通り、AIというのは正しい情報を与えなければ正しい答えを返してくれない。AIに学習させる情報の中に一つでも間違いがあれば、導き出される答えも正しいものにはならないのだ。  今やネット検索を利用すれば様々な情報を得られるが、その全てが同じ答えではない。先入観や思想、感性、環境、それらによって情報は姿形を無数に変えてしまう。  確実に正しいと言える情報のみを抜き取り学習させるのは非常に困難で、流石にすべての情報を精査するのは時間的にも不可能だと判断した私たちは、情報の範囲を徐々に狭めていった。  その結果、最終的に対象を一人の人間に絞り込む事にした。  対象となったのは、数か月後に生まれてくる私の息子だ。  息子にマイクロチップを埋め込み、そこから息子の行動パターンや体調といった情報を随時アポロンに転送する。  上手く行けば、極めて狭い範囲ではあるが、息子の未来の一部を予測する事ができるはずだ。
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