6人が本棚に入れています
本棚に追加
邂逅 Ver 1
今日はクリスマスイブ。
そんな日に俺は作業服の専門店で商品を物色して居る。
夕方からは俺をお一人様認定した後輩の東、同期の婦警、白石と飲み会。
それ迄に買い物を済まさねば…
昨夜は火災現場で消防官とやり合った。
奴らは火事を消すのが仕事。
その後の出火原因の特定は俺達警察の仕事なのだが、勝手に出火原因が特定出来て居ないのに、現場取材に来た記者達に推測で喋って居た消防官が居たのだ…
「おい!あんた!!勝手に憶測で物を話されるのは迷惑だ!!消火が終わったならとっとと帰ってくれ!!」
俺の言い方が悪かったのか、相手の勘に触ったらしく、揉め事になり、お互い上司に宥められて終わった…
すっかりコゲ臭くなってしまった作業着の買い替えと、仕事に必要な白手、メジャー、ライト等を買い込んで一旦家に戻り、待ち合わせの場所に向かった…
もう、東と白石は到着して居る。
一次会も終わり、俺は帰りたかったのだが二人に捕まる…
「ちょっと〜、もう帰る気?イケメンのマスターの居るカクテルバーを見付けたから、付き合いなさいよ!」
既に半分以上出来上がって居る白石に、無理矢理連れて行かれる…
(そもそもお前の言うイケメンの定義って何なんだ?)
そのバーは雑居ビルの3階にあり、入り口に真鍮製で黒く西洋の城とその上に重なる二本の剣、そして『Sword Castle』の文字が浮かぶプレートが掛けてあった。
中に入ると七名程が座れるL字になったカウンター席と四つのテーブル席があり、迷わず一番奥のテーブル席に座る。
「ちょっと〜、三人なのに何でテーブル席?」
白石が言う。
「うるせーな。カウンターに座りたきゃお前一人で座れば良いだろうが!」と言うと、白石はフーンだ!と舌を出してカウンターに向かった。
それにしても、店に入った瞬間からカウンターの中に居たマスターらしき男が遠慮も無しにずっとこちらを見て居る…
俺も何故かその男に対して既視感があるのだ が、何処で出会ったのか全く思い出せない。
東が「権城さん、そんな奥に座って店内眺め回さないで下さいよ〜。挙動不審に見えますよ〜。」と言って来る。
仕方ない…これも刑事の悲しい性だ…
店内の奥に座り、入り口やら店内全体を見渡せる場所についつい座ってしまうのだ。
ジントニックを一杯引っ掛け、カウンターでイケメンだと言うマスターに話し掛けて居る白石に表で煙草を吸って来る旨を伝え、外に出る…
マスターはまだ此方をチラチラと見て居る…
煙草に火を点けながら、何処で出会った物か思い出そうとしている所に、そのマスターが出て来た…
「どうも…」と言い乍ら俺の横に立ち、ジッポーで煙草に火を点けて居る。
何となく気不味い…
すると、いきなりマスターが「お久し振り、権城さん。」と話し掛けて来た…
(俺、こいつに名乗ったか?)
驚いてマスターの顔を見て居ると「あれ?もしかして忘れてます?」と聞いて来る…
(誰だ?)
さっきから既視感は有るのに思い出せない。
黒い肩までの長髪を後ろで無造作に括ったその男は仕方ないなぁ…と言わんばかりに溜め息を吐き、こう言った。
「あんたも大変だな。そのズボンの下の脛にはあちこち痣があるんだろ?」
思わずポロリと持って居た煙草を落としそうになる…
思い出した…
十年前、初めて所属した警察署の留置場で俺にそう言った三歳年上の男が居た…
「思い出してくれました?俺はあんたの事、肩時も忘れた事無かったんだけど…」と、その男はニヤリと笑った。
剣城 譲…
十年前、俺とその男は留置管理官と留置人と言う立場で出会って居たのだ…
最初のコメントを投稿しよう!